かつて「アーセナルの未来」を託された男、ヌーノ・タヴァレスが、静かに北ロンドンを去ろうとしている。エミレーツではその名が語られることも少なくなった左サイドバックが、イタリアの地で評価を取り戻し、ラツィオへの完全移籍によって約900万ユーロというタイムリーな資金をクラブにもたらそうとしている。
鳴り物入りの加入も、ロンドンでは輝けず──「忘却のサイドバック」と化した男
2021年、ベンフィカから約800万ポンドでアーセナルに加入した当時、ヌーノ・タヴァレスには高い期待が寄せられていた。攻撃参加に定評のある左SBとして、ミケル・アルテタ体制における新たな武器になるはずだった。
だが、現実は過酷だった。アルテタ監督の求めるポジショナルプレーとタヴァレスの特性は噛み合わず、定位置確保には至らなかった。マルセイユ、ノッティンガム・フォレスト、ラツィオと3度のローンを経験するも、アーセナルのプランからは次第にフェードアウトしていった。
今季はレンタル先であるセリエAでのラツィオでのプレー。公式戦28試合出場・9アシストと攻撃面で存在感を示し、現地メディアやクラブ首脳陣に好印象を与えた。
信頼できる移籍市場のジャーナリスト、ファブリツィオ・ロマーノ氏によれば、タヴァレスのラツィオ完全移籍が決定的に。移籍金は約900万ユーロに設定されており、これはローン契約時に設定されていた「買い取り義務条項(obligation to buy)」が発動したためだという。
この900万ユーロは、補強資金を捻出する上で非常に重要な意味を持つ。アーセナルはまた、40%のセルオン条項(sell-on clause)も保持しているとされ、将来的な移籍でも利益を得られる可能性を残している。
ヌーノ・タヴァレスはアーセナルで“レジェンド”となることはなかった。だが、スキャンダルもなく、プロフェッショナルとして振る舞い、エミレーツでの時間を終えた。ファンからすれば、退団に対して感傷的な声は少ないかもしれない。それでも、クラブが今夏の戦力補強に必要な資金を確保する上で、この移籍金が大きな後押しになるのは間違いない。
タヴァレスと同様、かつての新戦力として迎えられたアルベール・サンビ・ロコンガも、セビージャでのローンから復帰予定ながら、アルテタのプランには含まれていないとされる。
この夏の移籍市場で、アーセナルは構想外となった選手を整理し、その資金でトップターゲットを確実に獲得する動きに出るだろう。まさにその“先陣”を切ったのが、ヌーノ・タヴァレスだった。