若き才能を巡る獲得レースが、イングランドの育成市場で再び過熱している。今、各クラブのスカウト陣が熱視線を送っているのが、サウサンプトンで頭角を現した16歳のセンターバック、ハーレー・エムスデン=ジェームズ。その将来性を高く評価するビッグクラブが、彼のサインを目指して水面下で激しい駆け引きを繰り広げている。
この争奪戦で一歩リードしているとされるのが、名門マンチェスター・ユナイテッド。英『Daily Mail』の報道によれば、アーセナル、チェルシー、トッテナムといったライバルを出し抜き、獲得レースで優位に立っていると伝えられている。
マンチェスター・ユナイテッドがリードする背景には、単なる資金力の差以上の要因があるようだ。とりわけ注目されているのが、クラブのテクニカルディレクター、ジェイソン・ウィルコックスの存在。かつてサウサンプトンに在籍していた彼のネットワークが、エムスデン=ジェームズ側との初期交渉をスムーズに進めるうえで大きなアドバンテージになっていると見られている。
加えて、ユナイテッドには長年にわたって才能ある若手を育ててきた実績がある。16歳のセンターバックにとっては、トップチームを目指す上で申し分ない環境だ。現時点ではプロ契約を結んでいないエムスデン=ジェームズは、アカデミーへの移籍が可能な状況にあり、サウサンプトンへの補償金として約100万ポンドが必要とされている。この程度の金額は、アーセナルやチェルシーを含む有力クラブにとっては十分に許容範囲内だ。
それでも、ユナイテッドが先行していると報じられるのは、クラブの育成環境と明確なビジョンが若手にとって魅力的である証左だろう。報道によれば、初期交渉はすでに「ポジティブな感触」で進んでいるとのことで、この夏の移籍成立に向けて具体的な動きが始まっているようだ。
ヘブンやカナ=バイイックに続く“未来への投資”
マンチェスター・ユナイテッドが近年力を入れているのが、アカデミーの強化。トップチームの立て直しと並行して、長期的なスカッド形成を見据えた補強が着実に進められている。エムスデン=ジェームズが加入すれば、カーリントンにさらなる厚みが加わることになる。
その代表例が、昨年アーセナルから獲得したセンターバック、エイデン・ヘブンだ。わずか18歳ながら、ルベン・アモリム監督の信頼を掴み、ファーストチームの常連メンバーとなりつつある。エムスデン=ジェームズも同様のルートを辿る可能性があり、彼の持つフィジカルと判断力は、将来的にユナイテッドの守備陣を支える重要なピースになると目されている。
さらに、ル・アーヴルからフリーで加入したエンツォ・カナ=ビイクのように、ヨーロッパ中から逸材を集めて育て上げるスタンスは、クラブ全体に浸透している。今季はトップチームがヨーロッパリーグ決勝でトッテナムに敗れ、チャンピオンズリーグ出場権を逃すという厳しい現実に直面したが、クラブのリクルート部門は早くも次のシーズンに向けた準備を加速させている。
ウォルヴァーハンプトンのマテウス・クーニャ獲得が報じられるなど、即戦力と並行して未来の主力候補も着実にリストアップされている。エムスデン=ジェームズの加入が実現すれば、ユナイテッドの未来への投資はさらに本格化することになる。
アーセナル、チェルシーといったクラブもまた、育成に力を入れる方針を打ち出しており、この争奪戦の行方は予断を許さない。トロフィー争いを続けるアーセナル、若手獲得で積極性を見せるチェルシー、そして育成の名門ユナイテッド――いずれも魅力的な選択肢であることは間違いない。
最後に決断を下すのは、もちろん選手自身だ。ハーレー・エムスデン=ジェームズがどのユニフォームを纏うのか、その選択が彼の未来、そして選ばれたクラブの未来を大きく左右することになるのか。