今夏の移籍市場で去就が注目されているパラグアイ代表FWフリオ・エンシソ。ポルトガルの名門FCポルトが獲得に本腰を入れていると報じられる中、事態は一筋縄では進んでいないようだ。彼の代理人ペドロ・アルダベ氏が地元メディアに語った言葉が、その複雑な交渉の舞台裏を垣間見せている。
今シーズンの後半戦をイプスウィッチ・タウンで過ごしたエンシソは、プレー機会を得るための移籍であったが、ブライトンでの立場に劇的な変化は訪れなかった。そんな中、アルダベ氏はパラグアイのスポーツ番組『Futbol A Lo Grande』で、「フリオは環境を変える必要がある。彼には出場機会が必要だ」と強調。出場機会を最優先に考える姿勢が、代理人の言葉からもはっきりと読み取れる。
エンシソにとって重要なのは、ただの移籍ではない。彼は母国で国民的スターとして支持され、昨年には結婚も果たした。2026年のワールドカップ南米予選も控える中、継続的な出場機会と成長の場を手にすることは、代表での立場を確保するためにも不可欠なのだ。
一方、FCポルト側はリスボンの2強であるスポルティングとベンフィカに後れを取り、チーム再建を急務としている。クラブワールドカップに間に合わせる形で戦力を整えたい意向もあり、エンシソ獲得に熱心であることは間違いない。地元紙の見出しに連日名前が登場するほどの注目度で、攻撃的なタレントの補強を通じて、ファンの期待感を高めようとしている。
だが、アルダベ氏の「交渉は膠着状態にある」という発言が示すように、実際の話し合いは難航。パラグアイの有力記者アンヘル・エリアン氏も、ポルトが3度にわたりブライトンにオファーを提示したが、どれも満足のいく内容ではなかったと語っている。さらに、交渉がクラブワールドカップ後に持ち越される可能性も指摘しており、現時点で正式なオファーを出しているのはポルトだけであると強調した。
一方で、ポルトガルの大手紙『A Bola』は、「交渉は行われていない」とし、移籍実現には否定的な立場を示している。この情報の食い違いは、各国メディアの報道スタンスや情報源の差異を如実に物語っている。
ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンは、攻撃陣における選択肢の多さが際立つクラブ。すでにオリンピアコスからチャラランポス・コストゥラスの獲得を完了しており、7月の加入が決定済み。
それだけでなく、U-21世代ではアマリオ・コジア=デュベリーやマーク・オマホニーといった逸材も控えており、ブライトンの攻撃陣は層の厚さを誇る。こうした状況を背景に、エンシソの放出に関しても、クラブはあくまで納得のいく条件を優先しており、性急な判断を下す様子は見受けられない。
ポルト以外にも、セリエAの強豪インテルがチャンピオンズリーグ決勝進出を果たした勢いそのままに、エンシソに関心を示しているとの報道も存在する。さらに、アルゼンチンの若手バレンティン・バルコの名もポルトと並行して取り沙汰されており、移籍市場における駆け引きが活発化していることを感じさせる。
交渉は一時停止しているものの、フリオ・エンシソ自身の「新たな挑戦を望む姿勢」に揺らぎはない。果たして、パラグアイの若きストライカーはどの舞台を次なるステップに選ぶのか。クラブワールドカップ後の動きが、今後のキャリアにとって大きな分岐点となるかもしれない。