夏の移籍市場が本格化するなか、ラ・リーガの中堅クラブが思わぬ方向に舵を切った。今シーズンの躍進を支えたマンチェスター・ユナイテッド所属のアントニーの再獲得が暗礁に乗り上げるなか、レアル・ベティスはリバプールのフェデリコ・キエーザに熱視線を送っている。
プレミアで不完全燃焼に終わったイタリア代表ウインガーが、セビージャの地で再起を遂げる可能性が現実味を帯びてきた。
2025年1月にベティスへローン移籍して以降、アントニーはスペインで息を吹き返した。26試合出場で9ゴールを記録し、14ゴールに直接関与。降格圏に沈んでいたチームを一気にヨーロッパリーグ出場権圏内にまで押し上げる立役者となった。
情熱的なプレーと圧巻のドリブルでファンの心を掴み、セビージャの街に希望をもたらしたブラジル人ウインガーは、完全移籍での残留が切望されていた。
しかし、事態はそう単純ではない。ユナイテッドは彼に対して4000万ユーロという高額な移籍金を設定。さらに週給の高さもネックとなり、ベティス側にとっては財政的に非現実的なオペレーションになってしまった。ユナイテッド側も再ローンには消極的で、できる限り早く売却益を得たいという思惑が交錯している。
このような背景のもと、ベティスのスカウト陣が次に白羽の矢を立てたのが、フェデリコ・キエーザだった。昨夏ユベントスからリバプールに加入したイタリア代表は、アンフィールドでの1年目を満足のいく形で終えることができなかった。度重なる負傷と、アルネ・スロット監督の下で戦術的なフィットに苦しみ、公式戦14試合466分間の出場にとどまった。
わずか2ゴール2アシスト。数字以上に存在感の薄さが問題視されており、リバプールは今夏のローン移籍、あるいは完全売却の可能性を探っているという。西『Football Espana』によれば、すでにベティスは選手の代理人と初期接触を済ませたとされ、キエーザ側にもポジティブな反応があったと報じられている。
セリエA勢も注視する中、ベティスは「アントニー再現」の説得材料で勝負
とはいえ、ベティスにとっての競争は熾烈だ。イタリア国内では、キエーザに対してACミラン、ナポリ、ASローマといったセリエAの有力クラブが関心を示している。特に、安定した出場機会を求めるキエーザにとって、母国復帰は現実的な選択肢となる可能性が高い。
それでもベティスには、アントニーという成功例がある。わずか半年で評価を一変させたそのプロセスは、キエーザにとっても魅力的に映るはずだ。プレミアでの失意をラ・リーガでの再生につなげる——その道筋を描けるクラブは、今のところベティスをおいて他にないかもしれない。
リバプールにとっても、プレータイムが限られる選手を欧州カップ戦出場権を持つクラブへ一時放出し、再評価を促すのは理にかなっている。特に、モハメド・サラーが年末にアフリカネイションズカップで不在となる期間に備え、プレシーズンでキエーザを見極める可能性も残っているものの、現時点では移籍が現実的なシナリオと見られている。
27歳のキエーザがスペインの地で新たな挑戦を選ぶのか、それともイタリア復帰を決断するのか。今夏の移籍市場の行方を占うひとつのキーファクターとして、彼の動向は注目に値する。レアル・ベティスの野心と覚悟が、また一人のタレントに新たなキャリアの扉を開くかもしれない。