クリスタル・パレスが今夏、最初に本格的なアクションを起こしたターゲットは、PSVアイントホーフェンの正守護神を務めたアルゼンチン人GKワルテル・ベニテス。英『Daily Mail』のSami Mokbel記者によれば、32歳のベテランはすでにメディカルチェックを通過し、サウスロンドンへの移籍が最終段階に入っているという。
ベニテスは、昨季のPSVで主力としてエールディビジ制覇に貢献。チャンピオンズリーグでもPSVがベスト16に進出した中、12試合中11試合に先発出場。特にグループステージではアーセナルら強豪と対戦しながら、安定感あるセービングで評価を高めた。代表歴こそ1キャップに留まるが、国際舞台での経験値は折り紙付きだ。
加入が正式発表されれば、GK陣の戦力に厚みをもたら存在となる。現時点ではディーン・ヘンダーソンのバックアップを務める見込みだが、競争次第ではポジション奪取も十分に視野に入る。実際、ヘンダーソンは直近のイングランド代表戦(vsセネガル)でスタメン起用されるなど、名実ともに代表レベルの選手。プレミアリーグ屈指の守護神争いが、来季のセルハースト・パークで展開されることになりそうだ。
一方、クラブの外では、欧州カップ戦への出場を巡る問題がくすぶっている。FAカップ決勝でマンチェスター・シティを破り、クラブ史上初となるヨーロッパリーグ出場権を獲得したクリスタル・パレス。しかし、その道は今、思わぬ形で閉ざされる可能性に直面している。
発端は、オーナーシップ構造に関するUEFAの規定だ。欧州サッカー連盟は「同一大会における複数クラブへの出資」を原則として禁じており、実際にこれまで複数のクラブに対して制裁を課してきた。
現在、クリスタル・パレスの実質的なオーナーの1人であるジョン・テクスター氏が、リーグ・アンのオリンピック・リヨンにも出資している事実が問題視されている。また、別の株主デビッド・ブリッツァー氏も、デンマークのブレンビーIFとパレスの両方に関与しているため、ヨーロッパカンファレンスリーグにおいても出場資格を失う可能性が浮上している。
この状況を注目しているのが、プレミアリーグのライバルであるノッティンガム・フォレスト。英『The Guardian』などによれば、クラブ関係者はすでにUEFAへ書簡を提出し、出場権の取り扱いについての正式な調査を求めている。もしパレスが出場停止となれば、繰り上げでフォレストがヨーロッパリーグに出場できる可能性があるからだ。
一方、クリスタル・パレス側は「完全に独立した経営体制」を強調しており、UEFAの規定には抵触しないとの姿勢を崩していない。テクスター氏自身も、「私はクラブの経営に直接関与しておらず、クリスタル・パレスは独立した存在である」と明言。クラブの持続可能な運営方針をアピールしつつ、あくまでもルールの枠内であると主張している。
逆風を力に変えるか…静かに進行する補強戦略
欧州カップ戦への出場がどう転ぶにせよ、クラブが夏の移籍市場で手をこまねいているわけではない。ウォルター・ベニテスの獲得は、その最初のステップに過ぎない。今後数週間でさらなる補強に動くことが予想され、特に中盤や前線での戦力追加が報じられている。
プレミアリーグではアーセナルやリバプール、マンチェスター・ユナイテッドといったビッグクラブが大型補強に乗り出しており、移籍市場全体が活況を呈している。クリスタル・パレスもその波に乗り、限られたリソースの中で質の高い補強を進めていることは明らかだ。
クラブにとって今夏は、単なる「選手の出入り」にとどまらない。ヨーロッパの舞台への扉が閉ざされるのか、それとも開かれるのか。その運命は、UEFAの最終判断に委ねられている。