夏の移籍市場が活況を呈する中、エバートンがブンデスリーガで活躍する万能ディフェンダー、アンソニー・カシの獲得に本格的に乗り出した。マインツ05に所属する27歳のフランス人DFを巡っては、フルハムも以前から強い関心を抱いており、プレミアリーグクラブ間での争奪戦がヒートアップしている。
複数ポジションを高水準でこなすカシは、その汎用性と比較的リーズナブルな移籍金から、今夏の“掘り出し物”と評される存在だ。マインツとの契約は残り1年。延長交渉が進展しない現状を鑑みれば、移籍は時間の問題とも言える。
アンソニー・カシは、ストラスブールからフリートランスファーでマインツに加入して以降、チームに欠かせないピースとなってきた。2024-25シーズンは公式戦35試合に出場し、1ゴール7アシスト。右サイドバックを主戦場としながら、左SBやCB、さらには右MFでもプレーできる順応性は、現代フットボールにおいて極めて貴重だ。
成功率の高いクロス精度にも定評があり、今季だけで25本のクロスを成功。攻守両面での貢献度は抜群で、プレミアリーグでも即戦力と評価されている。マインツではボー・ヘンリクセン監督の下で右ウィングバックやセンターバックとしても存在感を発揮。
しかし、クラブの財政状況がこの万能ディフェンダーの移籍を後押しする可能性も高い。今夏の移籍市場でベネディクト・ホラーバッハを獲得したマインツは、報道によれば850万ユーロ規模の赤字を抱えており、キャッシュフローの改善を図る必要がある。契約が残り1年となった今、売却によって確実に利益を確保するという判断は極めて現実的だ。
市場価値は1200万ユーロとされるが、獲得に必要な移籍金は1000万ユーロ未満と見られており、エバートンやフルハムにとっては賢い補強となり得る。
エバートンの再建計画にフィットするカシ、フルハムとの一騎打ちへ
エバートンにとって、今夏の移籍市場はクラブ再建の命運を握る重要な局面だ。10人以上の選手が退団する中、デイビッド・モイーズ監督は経験値と即戦力を兼ね備えた人材を求めている。特にサイドバックのポジションは緊急課題であり、アシュリー・ヤングがチームを去った今、新たなサイドバックの補強は急務となっている。
右サイドではキャプテンのシェイマス・コールマンがキャリア終盤を迎えており、ネイサン・パターソンも安定感に欠ける。その中で、両サイドを高レベルでカバーできるカシは、理想的なターゲットとして浮上している。
さらに、エバートンは右ミッドフィールダーの人材確保にも取り組んでおり、マインツでの実績から見ても、カシは複数のポジションを埋める「一石三鳥」の補強となる可能性がある。彼の攻撃参加はエバートンの得点力不足を補う鍵にもなり得るだろう。
一方で、フルハムもこのフランス人DFに対して強い興味を持ち続けており、既に数カ月前からスカウティングを継続している。プレミアリーグで中位以上を目指す上で、柔軟性と経験値を併せ持つカシの存在は貴重だ。今後は両クラブがどれだけ迅速かつ具体的に動けるかが、争奪戦の鍵となる。
なお、エバートンはウェストハムから退団予定のヴラディミール・ツォウファルにも関心を示している。モイーズ監督との再会を望む同選手はフリートランスファーでの獲得が可能とされており、こちらも進行中の案件だ。ただし、カシのように複数の役割を担える選手は希少であり、ツォウファルとは異なる方向性の補強として検討されている。
アンソニー・カシの去就は、マインツの財政状況、プレミアリーグクラブのニーズ、そして選手本人の意志という複数の要素が絡む複雑な構図となっている。だが、その万能性と確かな実績は、どのクラブにとっても補強の要となり得る価値を秘めている。
エバートンか、それともフルハムか。プレミアリーグの舞台でカシが新たなキャリアを切り拓く日が訪れるのも、そう遠くないのかもしれない。