ノッティンガム・フォレストで再生を果たし、イングランドU-21代表としても栄冠を勝ち取ったエリオット・アンダーソン。その急成長を受け、彼の古巣であるニューカッスル・ユナイテッドでは、再びその名が大きく取り沙汰されている。
サポーターが熱望するのはただ一つ。かつての才能を自らの手で育て上げたクラブへと呼び戻すことだ。しかし、その道のりにはプレミアリーグの規則、PSR(利益と持続可能性に関する規則)という厚い壁が立ちはだかる。
2024年にノッティンガム・フォレストへ移籍した22歳のミッドフィールダーは、加入初年度から重要な戦力として台頭。公式戦42試合に出場し、2ゴール6アシストを記録するなど、同クラブを30年ぶりとなる欧州大会出場に導いた。
さらに、今夏開催されたU-21欧州選手権でも主軸として存在感を示し、全6試合に先発。決勝のドイツ戦では延長を含む99分間をフル出場し、イングランドの優勝に大きく貢献した。大会通じての安定感あるプレーには、フル代表入りを望む声も少なくない。
そんな中、SNS上ではニューカッスルのファンが彼の復帰を熱望。「もし移籍金に5000万ポンドを使うなら、アンダーソンにこそ投資すべき」「クラブ史に残るタレントを手放した痛みは大きい」といった投稿が目立つようになった。
そもそもなぜ、ニューカッスルは生え抜きの有望株を手放さざるを得なかったのか。その背景にあるのが、プレミアリーグが定めるPSR(Profit and Sustainability Rules)だ。
財政コンサルタントのステファン・ボーソン氏は英『Football Insider』で、アンダーソンとヤンクバ・ミンテの売却がなければニューカッスルは勝ち点剥奪のリスクに直面していたと明かしている。つまり、クラブ存続と将来性の天秤にかけ、やむを得ず生え抜きを放出したというのが実情だ。
エディ・ハウ監督も2024年の夏に「誰もアンダーソンを売りたくはなかった」と語り、クラブが望んだ形ではなかったことを強調。さらに、「今後もフットボールクラブが財政的理由で選手を売らねばならない事態は起こる」と、PSRがもたらす現実を指摘した。
PSRのルールでは、アカデミー出身選手の売却による収益は帳簿上“純利益”として扱われる。そのため、利益確保のために最も効率的な手段として、クラブが若手を手放すインセンティブが生じてしまう。これは、アンダーソンのようにクラブと深い結びつきを持つ選手にとっては、極めて痛ましい展開だ。
次世代の象徴ルイス・マイリーに託された未来
アンダーソンの事例は、現在のアカデミー所属選手にとっても無関係ではない。特に比較対象とされるのが、同じく中盤のポジションで期待を集めるルイス・マイリーだ。
ハウ監督は彼をチーム構想の中心に据えており、クラブも現時点での放出には否定的な姿勢を見せている。しかし、PSRの制約が続く限り、同様の判断を迫られる可能性は否定できない。アンダーソンの件が示したのは、クラブ経営と育成方針が必ずしも一致しないというプレミアリーグの現実だ。
今後、ニューカッスルがどのようにして若手育成と財政健全性のバランスを取っていくのか。その舵取りは極めて難しく、同時にクラブ文化を問われるテーマでもある。
エリオット・アンダーソンの復帰が実現するかは不透明だが、彼の名前がこれほどまでに語られる背景には、単なる戦力としての価値だけでなく、クラブが持つアイデンティティを象徴する存在だからこそなのだろう。