長年リバプールの中盤を支え、キャプテンとして黄金期をけん引してきたジョーダン・ヘンダーソンが、再びプレミアリーグの舞台に戻ってきた。今夏の移籍市場において、ブレントフォードと2年契約を締結し、サウジアラビアとオランダを経ての母国への帰還が実現した。
35歳となった今も、その存在感と影響力は色あせない。ピッチ内外で示すリーダーシップ、そしてあらゆる逆境を跳ね返してきたその精神力。彼の歩んできた道のりは、まさに模範と呼ぶにふさわしいものだ。
原点はサンダーランド…幼少期から備わっていた闘志と情熱
1990年6月17日、イングランド北東部にあるサンダーランドで誕生したヘンダーソン。幼い頃に移り住んだ郊外で、彼のフットボール人生は静かに始まった。父ブライアンは警察官でありながら熱心なフットボールファンで、チャンピオンズリーグ決勝を観戦するためにイタリアまで連れて行くなど、息子にその情熱を惜しみなく注いだ。
わずか8歳で地元クラブのアカデミーに加入。小柄で目立たない存在だったが、誰よりも強い向上心を持ち、左足のトレーニングや自主トレに励む日々を重ねた。体格に不安を抱え、クラブ側が放出を検討した時期もあったが、それでも彼の決意は揺らぐことはなかった。
17歳のときロイ・キーン監督に「トップチームでプレイできると思うか?」と問われ、即座に「できます」と答えたエピソードは有名だ。その一言が、彼の運命を変える転機となった。
2008年にプロ契約を結んだヘンダーソンは、同年11月のチェルシー戦でプレミアデビューを果たすも、0-5の大敗に悔しさを噛みしめた。その後、出場機会を求めて英2部コヴェントリー・シティへ期限付き移籍。初ゴールを記録するなど一定のインパクトを残し、クラブからの信頼を得た。
サンダーランド復帰後はスティーブ・ブルース監督のもと、右サイドの中盤で頭角を現し、2009-10シーズンにはリーグ戦23試合に先発。2年連続でクラブの若手最優秀選手に選出されるなど、その評価は急上昇していった。
リバプールでの重圧と栄光。キャプテンとして歴史に名を刻む
2011年夏、当時のリバプールが支払った移籍金は1600万ポンド。当初は高額な移籍金と “スティーブン・ジェラードの後継者” というプレッシャーに苦しみ、アンフィールドにおいて確固たる地位を築けずにいた。
レギュラーでなかった若きミッドフィルダーは退団の示唆もされていた。ブレンダン・ロジャーズ監督からフラムへの移籍を打診された際には涙を流したとも報じられている。元アメリカ代表MFクリント・デンプシー獲得を狙った動きで、デンプシーは移籍が間近に迫っていたと内情を明かしている。
だが、ここでも彼は踏みとどまった。残留して戦いたいと決意を語り、やがて指揮官の信頼をつかむと、副キャプテン、そして2015年にはついにキャプテンへと昇格。ジェラードからキャプテンマークを引き継いだ。
ユルゲン・クロップ監督の就任で、眠れる能力が一気に覚醒。ピッチで見せる闘志とあらゆるところに顔を出す献身性を武器にチームの心臓として機能。代名詞ゲーゲンプレスの体現者として、リバプールに欠かせない存在に変貌を遂げた。
フィルジル・ファンダイクやジョー・ゴメス、ジョエル・マティプらセンターバック陣に負傷者が相次いだシーズンには、最終ラインとしての起用も快く受け入れ、勝利のためにポジションを問わず全力を尽くす姿は、チームメイトたちからも厚い信頼を集めた。
リバプールでは通算492試合に出場し、チャンピオンズリーグやプレミアリーグ、FAカップ、カラバオカップ、クラブワールドカップ、コミュニティ・シールドと得られるタイトルを総なめにし、2019年にはFWA年間最優秀選手、イングランド代表年間最優秀選手など、個人賞も数多く受賞した。
海外挑戦とプレミア復帰…ブレントフォードで求められる新たな役割
2023年、12年間過ごしたリバプールを離れ、サウジアラビアのアル・イテファクへ移籍。指揮官のスティーヴン・ジェラードとの再会も話題となったが、環境に馴染めず半年で退団。その後加入したアヤックスでは主将を務める試合もあり、37試合に出場した。
そして今夏、フリートランスファーでブレントフォードに加入。キース・アンドリュース新監督は「フィットネス、メンタリティ、リーダーシップすべてが優れている」と称賛しており、ベン・ミーやノアゴールといったベテランの退団を埋める存在として期待がかかっている。
どんなに逆風が吹こうとも、それを正面から受け止め、乗り越えてきたジョーダン・ヘンダーソン。その歩みは派手さこそないが、強靭な意志とひたむきさが際立つ。
若い頃に感じた悔しさ、疑念、そして批判の声。それらすべてを糧とし、自らの手で道を切り拓いてきた。リーダーとは何かを背中で語るその姿は、チームにとってこの上ない年輪となっている。ブレントフォードでの新たな挑戦で、ベテランMFはどのような輝きを放つことになるのだろうか。