オールド・トラフォードに新たな革命の風が吹き始めている。ルベン・アモリム監督が描く青写真の実現に向け、マンチェスター・ユナイテッドは既にマテウス・クーニャとブライアン・ムベウモという2つの大きな駒を手に入れた。しかし、その代償として支払った1億2750万ポンドという巨額投資の重圧が、クラブの次なる一手を複雑にしている。
そんな中、クラブレジェンドのリオ・ファーディナンド氏が放った一言が、移籍市場に新たな波紋を広げている。自身のYouTubeチャンネルで熱く語った彼の提言は、ユナイテッドサポーターのみならず、サッカー界全体の注目を集めることとなった。
ファーディナンド氏が見抜いたアモリム戦術の核心
昨シーズンのプレミアリーグでわずか44ゴールしか挙げられなかったユナイテッドの攻撃陣。この数字が物語る現実は、アモリム監督にとって最優先課題であることは疑いようがない。しかし、ファーディナンド氏の視点は一歩先を行く。
ストライカーを獲得できないのであれば、私はミッドフィールダー獲得に乗り出す、とファーディナンドは断言。その理由は明確。アモリム監督の戦術システムにおいて、中盤の質こそがチーム全体のパフォーマンスを左右する要素だからである。
そして彼が名前を挙げたのが、ブライトンのカルロス・バレバだった。身体的に素晴らしい、ボールを運べる、あらゆるエリアでボールを受けられる、戦術的に非常に優れている、素晴らしいエネルギー、素晴らしい脚、プレミアリーグ経験者、セントラルミッドフィールダー…とあらゆる側面で大絶賛した。
ブライトンが築いた黄金の売却モデル
一方、バレバの所属クラブであるブライトンは、近年スター選手の売却で大きな成功を収めている。モイセス・カイセド、アレクシス・マック・アリスターといった選手たちを巨額の利益で送り出し、クラブの財政基盤を強固なものにしてきた。
ブライトンCEOのポール・バーバー氏の言葉は、バレバの将来について重要な示唆を与えている。私たちは、最高の選手たちが常に大予算を持つより大きなクラブから求められることを知っています、と率直に語った同氏は、続けてクラブの基本方針を明かした。
しかし、私たちはできる限り長く最高の選手たちをキープしたいと思っているが、我々のモデルの一部は、適切なタイミングで売却する準備ができていること。それが今夏になるとは言っていないが、確かに将来的にはそうなる可能性が高いことを私たちは知っている。
この発言は、ブライトンがバレバを手放す意思があることを示唆するもの。ただし、それは適切な条件とタイミングが揃った場合に限られる。
アモリム体制下で求められる新しいDNA
バレバが元イングランド代表DFの目に留まったのは偶然ではない。アモリム監督が求める選手像と、バレバが持つ資質が見事に合致しているからだ。
カメルーン代表として国際経験も豊富な21歳のバレバは、フィジカルの強さとテクニカルな能力を併せ持つ現代的なセンターハーフだ。ボックス・トゥ・ボックスの動きができる運動量と、狭いスペースでもボールを失わない技術力は、まさにアモリム戦術が必要とする要素そのものである。
現在ユナイテッドの中盤を支えるブルーノ・フェルナンデスとのコンビネーションを考えても、バレバの存在は大きな意味を持つ。ブルーノが創造性を発揮するためには、彼の後ろで守備を安定させ、かつ攻撃の起点となれる選手が必要不可欠だ。その役割を担えるだけの能力をバレバは十分に備えている。
さらに重要なのは、プレミアリーグでの適応という点である。多くの海外選手がイングランドの厳しいリーグ戦で苦戦する中、バレバは既にブライトンで存在感を示している。この経験値は、移籍後の即戦力という観点で極めて価値が高い。
ユナイテッドが直面している現実は厳しい。クーニャとムベウモへの大型投資により、さらなる補強資金を捻出するためには、アレハンドロ・ガルナチョやアントニーといった主要選手の売却が避けられない状況だ。
しかし、ファーディナンド氏の提言は、こうした制約の中でも最適解を見つける道筋を示している。RBライプツィヒのベンヤミン・シェシュコのようなストライカー獲得が困難であれば、中盤の質的向上に資源を集中させる戦略も十分に合理的と言える。
バレバ獲得が実現すれば、アモリム監督は理想とする戦術システムの構築に大きく前進することができる。ブルーノ・フェルナンデスとバレバという中盤コンビは、創造性と安定性を両立させ、チーム全体のパフォーマンス向上に直結するはずだ。