静かに進んでいたウェストハム・ユナイテッドの夏が、ついに動き出すかもしれない。グラハム・ポッター監督の下で再スタートを切るロンドンのクラブが、その攻撃陣の鍵を託そうとしているのは、ドイツ・ブンデスリーガで確かな存在感を示すロマーノ・シュミットだ。
英『The Guardian』のジェイコブ・スタインバーグ記者によれば、プレミアリーグの複数クラブを巻き込む展開へと発展しているようだ。オーストリア代表の25歳MFを巡っては、アストン・ヴィラ、フルハムといったライバルクラブも水面下で動いているが、ウェストハムはこの争奪戦に本腰を入れようとしている。
ポッター監督が明言する「最終局面でのオプションの強化」。それはただの補強ではなく、スタイルの確立を意味する。就任からまだ日が浅い指揮官だが、その哲学はすでにクラブの血流に注がれ始めている。
ロマーノ・シュミットがもたらす創造性と柔軟性
ヴェルダー・ブレーメンでの過去2シーズン、ロマーノ・シュミットは着実に数字を残してきた。2023-24シーズンの7アシストに続き、2024-25シーズンも5ゴール6アシストと安定した貢献を記録。だが、彼の真価は数字にとどまらない。
左ウィング、右ウィング、中央。どのポジションでもプレー可能な彼は、いわゆるポジションレス化が進む現代フットボールにおいて極めて価値の高い存在。特にボールを持った際の創造性は一級品で、密集をかいくぐるスルーパス、タメを作るポゼッション能力、そして何より判断の速さと正確さが、彼を単なるユーティリティプレーヤー以上の存在へと押し上げている。
ブレーメンでは主に4-2-3-1のトップ下を任され、試合のリズムを握る役割を担ってきた。ミッドフィルダーとしては小柄な部類に入るが、その分、低重心を活かしたターンと狭いスペースでのボール保持能力が光る。
ウェストハムが求めているのは、まさにこの違いを生み出す力。昨季の同クラブは守備面の安定を重視した補強が目立ち、ジャン=クレール・トディボ、エル・ハジ・マリック・ディウフ、そしてカイル・ウォーカー=ピータースと、後方の整備は着々と進んでいる。
しかし攻撃陣の補強といえば、U-21チームに加わったダニエル・カミングスのみ。トップチームの即戦力としては、いまだ空白が続いているのが現状だ。
そんな中でのシュミットの浮上。移籍金は約1500万ユーロと見積もられており、プレミアリーグ勢にとっては手頃な価格帯と言える。この金額で多才かつ創造的なMFを獲得できるなら、クラブの方向性とも合致していると言っていい。
プレミアリーグに舞い降りる“遅れてきた才能”か
ロマーノ・シュミットのキャリアは、決して派手なものではなかった。オーストリアのアカデミーで育ち、ラピド・ウィーンからブレーメンへと渡った彼は、25歳という年齢でようやく欧州トップリーグで注目を集め始めている。
この“遅咲きの才能”がプレミアリーグという檜舞台でどう羽ばたくのか。もちろん課題もある。激しいフィジカルコンタクトへの適応、プレミア特有の高速カウンターへの理解、そしてより高度な戦術眼。しかし、グラハム・ポッターという育てる戦術家の下でなら、それらの壁を乗り越えることも十分に可能だ。
一方で、ウェストハムにはまだ他のターゲットもいる。ニューカッスルから放出が噂されるカラム・ウィルソン、さらにはユヴェントス所属のドウグラス・ルイスなど、多角的なアプローチが進行中だ。
とはいえ、ポッターの描くチーム像において、攻撃の中心となる“頭脳”が必要であることは疑いない。その役目を担う存在として、ロマーノ・シュミットの名前は決して軽くはない。ロンドン・スタジアムに、新たなマエストロは誕生するのか。