エヴァートンで9年間を過ごしたドミニク・キャルバート=ルーウィンが、ついにグディソン・パークを後にした。28歳の元イングランド代表ストライカーは現在フリーエージェントという立場にあり、移籍金ゼロという魅力的な条件が欧州の強豪クラブたちの食指を動かしている。
その中でもアストン・ヴィラの動向が特に注目を集めており、ウナイ・エメリ監督率いるクラブが、財政的制約という逆境を逆手に取った巧妙な補強戦略を展開している。
ACミランやニューカッスル・ユナイテッドという強力なライバルたちとの争奪戦において、ヴィラは既にキャルバート=ルーウィンの給与要求について具体的な問い合わせを開始しており、その本気度の高さを物語っていると、英『The Sun』が報じた。
PSR規制が生んだ新たなチャンス
アストン・ヴィラが直面している最大の課題は、UEFAの利益と持続可能性に関する規制、いわゆるPSR規則への対応だ。この規制により、ヴィラの今夏の移籍市場は驚くほど静寂に包まれており、これまでの補強は控えキーパーのマルコ・ビゾットと若手ディフェンダーのヤシン・オズジャンの2名にとどまっている。
エメリ監督は現在、マルクス・ラッシュフォードとマルコ・アセンシオがローン期間を終えて退団したことで、攻撃陣において2人のアタッカーが不足している状況に頭を悩ませている。この状況下で、移籍金のかからないキャルバート=ルーウィンという選択肢は、まさに天からの贈り物のような存在となっている。
PSR規則のためにこれまでの移籍期間は静かだったヴィラにとって、フリーエージェントの獲得は費用対効果の高い補強を実現する数少ない手段の一つだ。エメリ監督の戦術システムにおいて、キャルバート=ルーウィンのようなフィジカルの強さとエアリアルでの競り合いに長けたストライカーは、確実に価値のある戦力となるだろう。
ヴィラがキャルバート=ルーウィン獲得に動く背景には、主力ストライカーのオリー・ワトキンスを巡る不穏な動きも関係している。マンチェスター・ユナイテッドとニューカッスル・ユナイテッドがワトキンスに強い関心を示しており、ヴィラ側は断るには良すぎる入札があった場合のカバーとして、キャルバート=ルーウィンを位置づけているとみられる。
この戦略的思考は、単なる戦力の上積みを超えた、クラブの将来を見据えた慎重なリスク管理といえる。ワトキンスが残留すれば、キャルバート=ルーウィンは贅沢な控えオプションとして機能し、もしワトキンスが移籍すれば、即座にチームの攻撃を牽引する役割を担うことになる。
また、ヴィラは今夏、主力キーパーのエミリアーノ・マルティネスへのマンチェスター・ユナイテッドからのアプローチも拒否しており、主力選手の流出を防ぎながら、戦略的な補強を進めようとする姿勢が鮮明に表れている。
復活への賭けと懸念材料
しかし、キャルバート=ルーウィン獲得には一定のリスクも伴う。昨シーズンの彼のパフォーマンスは決して満足のいくものではなく、エバートンで26試合に出場してわずか3ゴールという成績は、かつてのゴールハンターとしての輝きを疑問視させるものだった。
さらに深刻なのは、ハムストリングの怪我によりシーズン終盤の14試合を欠場したという事実だ。彼の最後のプレミアリーグ先発が1月だったことを考えると、フィットネス面での不安は決して軽視できない要素となっている。28歳という年齢を踏まえれば、この怪我が彼のキャリアにどのような長期的影響を与えるかは慎重に見極める必要がある。
それでも、キャルバート=ルーウィンが持つポテンシャルと経験値は魅力的だ。プレミアリーグで150試合以上の出場経験を持ち、イングランド代表としても11試合4ゴールの実績を残している彼には、適切な環境さえ与えられれば復活を遂げる可能性が十分に残されている。エメリ監督の戦術的指導力と、ヴィラの上昇志向に満ちたチーム環境は、キャルバート=ルーウィンの再生にとって理想的な舞台となるかもしれない。