昨シーズン途中に低迷し続けていたウェストハムの監督に就任したグラハム・ポッター。まもなく約8か月を迎えるロンドンのクラブはついに真の意味での革命を起こそうとしている。
その中心人物となるのが、現在ローマに所属するアルテム・ドフビクである。ウクライナ代表ストライカーの獲得は、もはやクラブの得点源を委ねる人材になるかもしれない。
なぜなら、ニクラス・フュルクルクという唯一のオプションでは、プレミアリーグという戦場での勝利は望めない。さらに深刻なのは、昨シーズンローン移籍していたエヴァン・ファーガソンが8試合無得点という結果に終わったことで、クラブの攻撃力不足が如実に露呈したことだ。
しかし、皮肉にも、このファーガソンの存在がドフビク獲得への道筋を照らしている。7月23日にファーガソンがローマに300万ユーロのローン移籍で加入し、3700万ユーロの完全移籍オプション付きで契約を結んだことで、ローマのフォワード陣に新たな競争が生まれた。
この状況により、ドフビクはもはや確実なスターターではない立場に追い込まれつつある。イタリア紙『La Gazzetta dello Sport』の報道によると、ローマは3030万ポンドでドフビクの売却を検討しており、この数字はウェストハムにとって現実的な範囲内にある。
現在のウェストハムが置かれた状況は、まさに背水の陣といえる。クラブはニューカッスルから放出されたカラム・ウィルソンをフリートランスファーで獲得することを期待しているが、34歳となるウィルソンの怪我の履歴を考慮すると、より若く安定したオプションとしてドフビクの価値は計り知れない。
ドフビクという名の救世主:エリートレベルの実績
28歳のドフビクが持つ実績は、まさにエリートストライカーの証である。2023-24シーズンのジローナでは、ラ・リーガ36試合で24ゴール8アシストという驚異的な数字を残し、チームのチャンピオンズリーグ出場権獲得に大きく貢献した。そして2024-25シーズンのローマでも、セリエAで32試合12ゴール2アシストという安定した成績を維持している。
この数字が物語るのは、ドフビクの類まれな適応力である。スペインの戦術的複雑さにも、イタリアの守備的堅牢さにも対応できる柔軟性は、プレミアリーグという新たな舞台でも十分に発揮されるはずだ。これまでの補強がエル・ハッジ・マリック・ディウフ、カイル・ウォーカー=ピーターズのみという状況下で、ドフビクはクラブの攻撃戦術の中核を担うことになるだろう。
特筆すべきは、ドフビクの左足から放たれるシュートの精度と威力である。身長191センチの恵まれた体格を活かしたヘディング能力と、モバイルストライカーとしての機動力を併せ持つ彼は、ポッター監督が志向する可変的な攻撃システムに完璧にフィットする。ウェストハムが長年求め続けてきた、真のゴールマシンがついに現実のものとなろうとしているのだ。
さらに重要なのは、ドフビクがローマで培った戦術的理解度である。イタリアサッカーの緻密な守備組織を相手に12ゴールを記録した経験は、プレミアリーグの激しいプレッシングにも対応できる証拠となる。ウェストハムにとって、このような実績を持つストライカーは大きな戦力アップに繋がる。
ポッター監督の野心と移籍市場戦略の現実
ポッター監督にとって、ドフビク獲得は単なる戦力補強を超えた意味を持つ。彼のキャリアにおいて、チェルシーでの苦い経験を乗り越え、ウェストハムで真価を発揮する絶好の機会なのだ。ポッター監督は高額なストライカー獲得に多くの予算を使うことを望んでいないとする報道もあるが、ドフビクの3030万ポンドという価格設定は、彼の実績を考えれば妥当な投資といえる。
現在のウェストハムが直面しているのは、来シーズンの降格争いという現実的な脅威だ。マルコ・アルナウトビッチが過去10年間で最も成功したストライカー獲得であったことを考えると、クラブは慎重な選択を迫られている。しかし、慎重さが消極性に転じてしまえば、プレミアリーグでの生き残りは困難を極める。
ファーガソンのローマ移籍は、若手選手の育成機会提供以上の戦略的意味を持つ。彼の移籍によりローマ内部での競争が激化し、結果的にドフビクの立場が不安定化する。この状況をウェストハムが巧みに利用できれば、相場以下での獲得も夢物語ではない。