エディ・ハウの脳裏には、一つの数字が焼き付いている。8000万ポンド。チェルシーがニコラス・ジャクソンに設定した移籍金額だ。これは単なる金額交渉ではない。ニューカッスル・ユナイテッドの来季の命運を左右する、まさに運命の分岐点なのである。
今夏の移籍市場において、ニューカッスルほど苦戦を強いられているクラブは珍しい。昨季のカラバオカップ制覇とチャンピオンズリーグ出場権獲得という輝かしい実績を背景に、補強への期待は高まっていた。
しかし現実は残酷だった。リアム・デラップはチェルシーを選び、ジョアン・ペドロも同様の選択をした。さらにウーゴ・エキティケはリヴァプールへと旅立った。まるで呪われたかのように、主要ターゲットが次々と他クラブの手に渡っていく。
そして今、最も深刻な事態が迫っている。アレクサンデル・イサクの退団である。リヴァプールからの正式オファーが間近に迫っており、ニューカッスルは戦々恐々としている。スウェーデン代表FWを失うことは、攻撃陣の根幹が揺らぐ。エディ・ハウ監督にとって、フォワードの補強は最優先課題となった。
ジャクソン獲得交渉の実態と8000万ポンドの攻防
『The i Paper』が明かした内容によると、ニューカッスルとチェルシーの間で既に事前交渉が行われている。焦点となっているのは移籍金の評価額。チェルシー側は約8000万ポンドを要求している一方、ニューカッスルは6500万ポンド程度が妥当と判断している。この1500万ポンドの開きは決して小さくない。
ジャクソンがニューカッスルの関心を集める理由は明確。2023年6月にビジャレアルから加入して以来、81試合で30ゴールという安定した成績を残している。マンチェスター・ユナイテッドも関心を示しており、競争が激化している状況がジャクソンの市場価値を押し上げている。
しかし、チェルシー側の事情も複雑だ。ジョアン・ペドロとリアム・デラップの加入により、ジャクソンのポジション争いは激化している。エンツォ・マレスカ監督は2025年のFIFAクラブワールドカップにおいて、ジャクソンを68分間しか起用しなかった。
さらに深刻なのは、ジャクソンの規律面での問題。ニューカッスル戦でのスヴェン・ボトマンへの肘打ちに続き、クラブワールドカップでは危険なタックルで2試合の出場停止処分を受けた。連続する退場劇は、チェルシー内での立場をより不安定なものにしている。
ニューカッスルの戦略転換とシェシュコ獲得失敗の影響
当初、ニューカッスルの最優先ターゲットはRBライプツィヒのベンヤミン・シェシュコだった。来週には大きな動きがあると期待されているが、マンチェスター・ユナイテッドの介入により状況は複雑化している。シェシュコがオールド・トラフォードを選ぶ可能性が高まっており、ニューカッスルは代替案の検討を余儀なくされている。
この状況がジャクソン獲得に向けた交渉を加速させている。ポール・ミッチェルの早期退任により混乱が生じているものの、エディ・ハウ監督はフォワード補強への強い意志を示している。ブレントフォードのヨアン・ウィッサも候補に挙がっているが、ブレントフォード側の強硬な姿勢により実現は困難視されている。
ニューカッスルにとって、ジャクソン獲得でイサクの穴が埋まるとは考えにくいはずだ。とはいえ、イサク退団後の攻撃陣再構築、そしてチャンピオンズリーグ圏内定着に向けて、計算できるストライカーの存在は大きい。
今後数週間でニューカッスルがチェルシーの要求額に応じるか、それとも他の選択肢を模索するか。エディ・ハウ監督の手腕が問われる正念場が続いている。