エミレーツでの悪夢から立ち直ろうとするラヒーム・スターリングにとって、クレイヴンコテージはただの移籍先ではない。フラムが獲得へ関心を示しているこの30歳のイングランド代表ウィンガーは、キャリアの天王山を迎えようとしている。
英『TEAMtalk』が報じた情報によれば、チェルシーとフラムは移籍合意に向けて最終段階に入り、2000万ポンドという移籍金で取引が成立する可能性が高まっているようだ。
スターリングが歩んだ道のりは、決して平坦ではなかった。リヴァプールで頭角を現し、マンチェスター・シティで築いた黄金期から、チェルシーでの期待外れな日々、そしてアーセナルでの取るに足らない成績まで、近年の彼にとって試練の連続だった。
2022年7月にチェルシーが4750万ポンドで獲得した際、彼はゲームを変えるアタッカーとして期待されていた。しかし、ウェストロンドンでの現実は厳しく、監督交代が相次ぐ中で出場機会は激減していく。
2024/25シーズンのアーセナルへのローン移籍も、復活への道筋を描くはずだった。だが28試合でわずか1ゴール5アシストという数字が、彼の苦悩の深さを物語っている。1143分という限られた出場時間の中で、かつてマンチェスター・シティで見せた輝きを取り戻すことはできなかった。
フラムが描く復活のシナリオ
フラムがスターリング獲得に動く理由は明確だ。ウィリアンの退団とアダマ・トラオレの不確実な将来により、ワイドアタッカーのポジションに緊急性が生まれている。現在、アレックス・イウォビが唯一信頼できるワイドアタッカーという状況で、経験豊富なスターリングの加入は戦術的な多様性をもたらす。
コッテージャーズにとって、2000万ポンドという価格は彼の質から考えれば破格の掘り出し物だ。かつてプレミアリーグで年間20ゴールを記録し、イングランド代表としても82試合で20ゴールを挙げた実績を持つウィンガーを、この価格で獲得できる機会は滅多にない。フラムの首脳陣は、環境の変化がスターリングにもたらす化学反応に期待を寄せている。
ナポリのアントニオ・コンテ監督も獲得を承認しているとの報道もあるが、スターリング自身はロンドンに留まることを強く希望している。家族の事情や生活環境を考慮すれば、フラムへの移籍は最も現実的な選択肢と言える。個人条件の合意に近づいているという事実も、この移籍が現実味を帯びていることを示している。
2025/26シーズンへの期待と課題
スターリングがフラムで直面するのは、環境の変化だけではない。自身の滞った運命を復活させるプロセスを開始しなければならない。30歳という年齢は決して若くないが、ウィンガーとしてはまだまだ現役を続けられる年齢でもある。フラムでの新たな挑戦は、彼のキャリアにとって最後の大きなチャンスかもしれない。
マルコ・シルバ監督の戦術システムは、スターリングの特徴を活かすのに適している。フラムの攻撃的なアプローチと、サイドからの仕掛けを重視するスタイルは、彼が得意とするプレーパターンと合致する。また、プレッシャーの少ない環境で、自由にプレーできることも彼にとってプラスに働くだろう。
早熟なスターリングにとって、30歳を前に衰えを見せ始めたのは必然とも言える。かつてのスピードやアジリティは見る影もなく、ベテランの域に差し掛かりプレースタイルの変更にも苦慮している。
フラムでは最後の挑戦になる可能性も高いが、まずはチェルシーとの交渉を取りまとめ、クレイヴンコテージで完全復活を遂げられるのか。