トッテナムのスター選手がまたひとりトッテナム・ホットスパーを離れる。10年にわたりクラブの象徴であり続けたソン・フンミンが、新たな挑戦の地としてメジャーリーグサッカー(MLS)を選んだ。移籍先はロサンゼルスFC(LAFC)。彼のキャリアの終章にふさわしい、鮮烈な再出発である。
トッテナムでの10年と、その幕引き
2015年にバイエル・レバークーゼンから加入した若きアタッカーは、10年の時を経て、トッテナムのキャプテンとしてそのキャリアに区切りをつけた。454試合173ゴールという数字は、確かにクラブの歴史に名を刻んだ。ノースロンドンのスタジアムに響き渡る「ソン」のチャントは、ピッチ上で彼が築いた信頼と、クラブへの忠誠の結晶だった。
昨季、46試合で11ゴール12アシストという成績を残したソンは、依然として攻撃の核として機能していた。WhoScoredによれば、ビッグチャンス創出は16回、ドリブル成功率は41%。年齢を重ねながらも、トップレベルの攻撃力を維持し続けていたことは明白。
33歳になり、全盛期のスピードやキレがなくなっているのが事実だが、その存在感はいまだに健在で、若手も増え始めているクラブにおいて精神的支柱となっている。
それでも、彼は「すべてを成し遂げた」と語った。スパーズでのヨーロッパリーグ制覇という唯一のトロフィーを手にしたことも、その決断を後押ししたのかもしれない。
感情を抑えきれなかった記者会見では、「子供として来て、男として去る」と語り、クラブとファンへの感謝を忘れなかった。キャプテンとしての矜持と、人間としての誠実さがにじんでいた。
なぜMLSなのか?LAFCを選んだ理由
英『GiveMeSport』の報道によれば、韓国代表FWはすでにLAFCとの間で合意に近づいており、同クラブは交渉を詰めるために代表団を韓国へ派遣している。契約の細部はまだ明らかになっていないが、トッテナム側はソンの意思を尊重し、移籍金を大幅に引き下げてでも彼の希望通りの移籍を実現させる構えだという。
ソンがMLS、特にロサンゼルスを選んだ背景には、2つの要素が存在すると考えられている。ひとつは、現地の韓国系コミュニティの存在だ。韓国代表のキャプテンとして、異国の地で精神的な拠り所があることは重要だ。
そしてもうひとつは、2026年の北中米ワールドカップを見据えた準備だ。米国でのプレーに慣れ、生活に適応することが、彼にとって国家代表としての使命を全うする上で有利に働くと見られている。
一方で、MLSというリーグの変化もこの選択を後押ししている。メッシ、ブスケツ、インシーニェ、そしてスアレス――世界的なスターたちが次々と集結する今、MLSは「キャリアの黄昏」ではなく、「新たな表現の舞台」へと変貌している。その潮流に、ソン・フンミンが加わるのは自然な成り行きだ。
LAFCがMLS史上最高額の移籍金を支払う可能性があるとの報道もあるが、具体的な数字は伏せられている。昨夏と今春、サウジアラビアのクラブが提示した4000万ユーロという評価額よりも低い金額での移籍となる見込みだが、これはビジネスの論理よりも、ソン本人の意思が優先された結果である。
ソン・フンミンのLAFC行きは、MLSにとってはリーグ価値を高める戦略的補強であり、トッテナムにとっては時代の終焉を意味する。だが、彼のキャリアはまだ終わっていない。
むしろ、ワールドカップを見据えた2年間の助走が今、始まったのだ。プレミアリーグで磨かれたスピード、技術、戦術眼は、ロサンゼルスのピッチでも輝きを放つはずだ。西海岸の空の下で、ソン・フンミンという男の物語は、まだまだ続く。