カラム・ウィルソンの得点嗅覚は、プレミアリーグの中でも鋭かった。だがその一方で、ピッチに立てない時間もまた長かった。33歳という年齢、過去の負傷歴、そして1年契約。賭けのような獲得にも見える。
だがウェストハムは、このギャンブルに強い意思を込めた。これまで前線を支えたストライカー、ミカイル・アントニオの退団。そこからの再構築に、即戦力を求める選択は必然だった。
アントニオ退団の穴埋め…カラム・ウィルソンと1年契約合意
ウェストハムは攻撃陣の刷新に動き出している。英『The Athletic』によれば、クラブは元ニューカッスル所属のストライカー、カラム・ウィルソンとの1年契約で合意に至った。すでにメディカルチェックは完了し、契約内容は基本給を抑えつつ出場数や得点に応じたインセンティブを含む、極めてパフォーマンス依存型の構成になっているという。
ウィルソンはニューカッスル時代に130試合で47ゴールを挙げ、2022-23シーズンにはキャリアハイとなる18リーグゴールを記録。ボーンマス時代も含めれば、プレミアリーグで通算90ゴール以上を叩き出している。ただし、昨季は負傷に悩まされ、リーグ戦での先発はわずか2試合、得点も1に留まった。
しかし、その得点力は未だに脅威だ。とりわけウェストハム戦での成績は抜群で、プレミアリーグでは同クラブ相手に11ゴールを記録している。ポッター監督がこのベテランFWに目を向けたのは偶然ではない。経験、プレミアでの実績、そして“得点感覚”という明確な武器。クラブの象徴だったアントニオの退団を受けて、まさに代役にふさわしいと判断された。
ミカイル・アントニオは契約満了により今夏クラブを退団。35歳となったジャマイカ代表FWは、プレミアリーグにおけるクラブ歴代最多得点者としての地位を築いたが、2024年12月の交通事故を機に出場機会が減少。フリーエージェントとして新天地を探している。
そのアントニオの穴を埋めるのが、同じくベテランのウィルソンというのは、クラブとして即戦力を重視した補強。若手ではなく、今すぐゴールを奪える男。それが今のウェストハムにとって何よりも求められている。
PSRと戦う補強戦略!ポッター体制で進む構造改革
ウィルソンの獲得は、ウェストハムにとって今夏4人目の補強となる。すでに、ジャン=クレール・トディボの完全移籍、スラヴィア・プラハからエル・ハッジ・マリック・ディウフ、そしてサウサンプトンからカイル・ウォーカー=ピータースをフリーで迎えている。
だが、クラブの補強戦略は青天井ではない。今夏の動きには、PSR(利益と持続可能性に関する規則)という厳格な財政制約が付きまとう。ウェストハムは選手の獲得に先立ち「まず放出が必要」と判断しており、モハメド・クドゥスを約5500万ポンドでトッテナムに放出することで、一定の収支均衡を図った。
それでもなお、クラブはゴールキーパーとウィンガー、さらに中盤の再編にも目を向けている。現守護神アルフォンス・アレオラへの信頼は揺らいでおり、レスター・シティのGKマッズ・ハーマンセンへの関心が高まっている。
指揮を執るグレアム・ポッターにとって、今回の補強はただ前線の枚数を揃えただけではない。彼はブライトン時代から知られる構築型の戦術家であり、チェルシーでの短命な経験を経て、再び自らの哲学を証明しようとしている。
ポッターの特徴は、ポゼッションとライン間の構造を重視した“構築的サッカー”。そこにウィルソンのような一撃で局面を変えられるアタッカーを組み込むことで、スタイルに柔軟性が加わる。出場時間を限定し、ベンチからの切り札として起用する選択肢も、負傷歴の多いこのFWには適しているだろう。
ウェストハムは今、平均年齢が高くなりすぎたチームの再構築に励んでいる。そこで33歳のベテランフォワードというのは少し逆戻りの印象を与えるが、昨季プレミアリーグで14位フィニッシュであることを踏まえれば、すぐにでも効果の出る補強も避けられない。
近年は負傷に泣くことも多かったウィルソンは、新天地で持ち前の決定力を発揮できるのか。