ソウルのワールドカップスタジアムで響いた、惜しみない拍手と歓声。8月3日、ニューカッスル・ユナイテッドとの親善試合で途中交代したソン・フンミンの背中を、韓国のファンたちは涙ながらに見送った。これが、10年間にわたってトッテナム・ホットスパーのエースとして君臨してきた韓国の英雄の、スパーズでの最後の姿となる。英『GIVEMESPORT』によると、LAFCとトッテナムが移籍に関して原則合意に達し、ソン・フンミン本人も退団の意思を正式に表明したのだ。
移籍金は2000万ドルから2700万ドルの範囲で調整されており、これはMLS史上最高額の移籍金記録を更新する可能性が極めて高い。現在の記録はアトランタ・ユナイテッドがエマヌエル・ラッテ・ラットに支払った2200万ドルだが、ソンの移籍によってこの金額は大幅に塗り替えられることになる。
ソンの決断を後押ししたのは、ロサンゼルスに根付く韓国系コミュニティの存在だった。カリフォルニア州には約40万人の韓国系住民が暮らしており、LAFCにとってソンの獲得は戦力補強の域を超えた巨大な商業的価値を持つ。また、2026年ワールドカップがアメリカで開催されることも、33歳の韓国代表キャプテンにとって大きな魅力となったはずだ。
MLS新時代の象徴となるスーパースター
ソン・フンミンという選手を語る際、数字だけでは表現しきれない魅力がある。2015年8月にバイエル・レバークーゼンから2200万ポンドでスパーズに加入して以来、454試合に出場し173ゴールを記録した彼の軌跡は、まさにプレミアリーグにおけるアジア人選手の地位向上を象徴している。プレミアリーグでの198の直接的ゴール関与数は、アジア人選手として前人未到の記録だ。
昨シーズン、ソンはキャリア最大の栄誉を手にした。ヨーロッパリーグ決勝でマンチェスター・ユナイテッドを下し、スパーズにとって17年ぶりのメジャータイトルをもたらしたのだ。この勝利は、トロフィー獲得という結果を遥かに超えて、ソンのリーダーシップの証明でもあった。ハリー・ケインの退団後、重圧を一身に背負いながらチームを牽引し続けた姿は、多くのファンの心に深く刻まれている。
LAFCにとって、ソンの獲得は戦術的な側面でも大きな意味を持つ。オリヴィエ・ジルーの退団により空いた攻撃の中核を、世界最高レベルの経験を持つソンが埋めることになる。MLS各チームは3人までの指定選手を登録でき、ソンはこの枠を使った獲得となる見込みで、リオネル・メッシの年俸2050万ドルに迫る待遇が用意されると予想される。
デニス・ブアンガとのコンビネーションは、MLSカップ・プレーオフにおいてLAFCの大きな武器となるだろう。ソンの豊富な経験と勝負強さは、プレッシャーのかかる局面でこそ真価を発揮する。元トッテナムの同僚であるユーゴ・ロリスとの再会も、チーム内での適応を早める要因となりそうだ。
アジアサッカー界のレジェンドが遺すもの
ソン・フンミンのスパーズ退団は、一つの時代の終わりを告げている。スパーズで450試合出場を達成した歴代7番目の選手として、彼の名前はクラブの歴史に永遠に刻まれることになる。ピッチ内外での人格者ぶりは、世界中のサッカーファンから愛され続けてきた理由でもある。
新監督トーマス・フランクとの話し合いを経て、ソンは自らの意志でスパーズを離れることを決断した。”今夏、このクラブを離れることを決めました”と涙ながらに語った記者会見は、10年間の思い出が詰まった感動的な瞬間だった。ダニエル・レヴィ会長もフランク監督も、レジェンドの決断を尊重し、円満な形での移籍を容認している。
LAFCでの新たな挑戦は、ソンにとって第二のキャリアの始まりを意味する。33歳という年齢は決して若くないが、彼の持つ技術とメンタリティは年齢を感じさせない。スティーブ・チェルンドロ監督の下で、ソンがどのような輝きを見せるのか。2026年ワールドカップに向けた韓国代表としてのコンディション維持も含めて、注目すべき要素は山積みだ。
この移籍は、MLSの国際的な地位向上にも大きく貢献するはずだ。メッシの加入によって世界的な注目を集めるようになったMLS市場に、アジア最高峰のスターが加わることで、新たなファン層の開拓が期待される。特に韓国系をはじめとするアジア系住民の多いロサンゼルスでは、ソンの存在がスタジアムに新たなエネルギーをもたらすに違いない。
ソン・フンミンの物語は、まだ終わっていない。プレミアリーグで築き上げたレガシーを胸に、今度はアメリカの地で新たな伝説の創造が始まろうとしている。