コヴェントリー・シティから一通のオファーがモリニューに届いた。ミラン・ファン・エヴァイク、24歳のオランダ人右サイドバック。移籍金1500万ポンドという明確な値札が付けられたこの提案は、ネルソン・セメドの退団で右サイドバックの補強が急務となっているウルブスにとって、興味深い選択肢となっている。
英『Daily Mail』のトム・コロモッセ記者が報じたこの移籍話は、いわゆる噂話ではなく、コヴェントリー側からの正式な打診という形で進展を見せている。
ファン・エヴァイクという選択肢…ウルブスの獲得候補リストの現在地
ウルブスの右サイドバック補強計画は複雑な様相を呈している。コヴェントリーから提示されたファン・エヴァイクは、現時点でヴィトール・ペレイラ監督の優先リストの上位には位置していない。エスパニョールの21歳、オマル・エル・ヒラリがより魅力的な選択肢として検討されているのが実情。
しかし、状況は流動的だ。チャンピオンシップでの一貫したパフォーマンスが正式なオファーを促す可能性は十分にある。実際、移籍市場の終盤になってターゲットを変更することは珍しくない。マルク・プビルとサンチェス・ベラスコという当初のターゲットがそれぞれアトレティコ・マドリードとナポリへ向かう可能性が高まる中、ウルブスの選択肢は限られてきている。
24歳のファン・エヴァイクは、2023年夏にヘーレンフェーンから約340万ポンドでコヴェントリーに加入。以来、チャンピオンシップで安定した活躍を続けてきた。2024-25シーズンには45試合に出場し、チームのプレーオフ進出に大きく貢献。
183センチという恵まれた体格を持つファン・エヴァイクは、現代的な攻撃的サイドバックの資質を備えている。過去2シーズンで9アシストを記録し、守備面でも1試合平均2.6回のクリアランスを記録。エールディヴィジ時代の2022-23シーズンには年間ベストイレブンに選出されるなど、その実力は確かなものだ。オランダU-21代表として8試合の経験も持ち、国際舞台での経験も申し分ない。
興味深いのは、他クラブの動向だ。ドイツのヴォルフスブルクが積極的にアプローチしており、新監督のパウル・シモニスはヘーレンフェーン時代にアシスタントコーチとして彼を指導した経験がある。『Sky Sport Deutschland』によれば、個人合意に至っているとの報道もあり、ウルブスが決断を遅らせれば、ブンデスリーガへの移籍が現実味を帯びてくる。
右サイドバック補強の緊急性…ウルブスが直面する現実
ウルブスの右サイドバック事情は深刻だ。長年チームを支えたネルソン・セメドがフェネルバフチェへフリー移籍し、大きな穴が開いている。2025-26シーズンの開幕戦は8月16日、ホームでのマンチェスター・シティ戦。タイトル候補を相手に戦うには、即戦力となる選手の獲得が不可欠だ。
ペレイラ監督は今夏、すでにフェル・ロペスと昨季ローンで活躍したヨルゲン・ストランド・ラルセンを合計4250万ポンドで獲得。さらにコロンビア人ウィンガーのジョン・アリアスと左サイドバックのダヴィド・メラー・ウォルフェも加入。一方で、マテウス・クーニャとラヤン・アイト=ヌーリがそれぞれマンチェスター・ユナイテッドとマンチェスター・シティへ移籍し、資金的な余裕は生まれている。
チェルシーのアクセル・ディサシ獲得にも動いているが、レヴィ・コルウィルの負傷でチェルシー側の状況が変わる可能性もある。攻撃面ではリヴァプールの若手ベン・ドークとの関連も取り沙汰されているが、右サイドバックの補強は最優先事項の一つだ。
コヴェントリー側も動き始めている。フランク・ランパード監督はファン・エヴァイクの移籍を見越してか、イプスウィッチのハリー・クラークに目をつけている。クラークは昨季シェフィールド・ユナイテッドへのローンで好印象を残しており、2026年に契約満了を迎えるため、イプスウィッチも売却に前向きだ。こうした動きは、ファン・エヴァイクの移籍が現実的なシナリオとして進行していることを示唆している。
1500万ポンドという移籍金は、現在の市場を考えれば妥当な金額だ。チャンピオンシップで実績を積み、プレミアリーグへのステップアップを渇望する24歳。イングランドのサッカーに精通し、言語の壁もない。何より、コヴェントリーからウルバーハンプトンへの移動は地理的にも近く、選手にとっても魅力的な選択肢となりうる。
個人的な見解
ファン・エヴァイクの獲得可能性について、私は楽観的な見方をしている。確かに現時点ではエル・ヒラリが優先候補とされているが、移籍市場は最後まで何が起こるか分からない。特に、エル・ヒラリがバルセロナからのオファーを2度断ったというエスパニョールへの忠誠心を考えると、獲得交渉は一筋縄ではいかないだろう。
戦術的な観点から見ても、ファン・エヴァイクはペレイラ監督のサッカーにフィットする選手だ。攻撃参加を厭わない積極性、ビルドアップにおける技術的な貢献、そして守備での安定感。これらはまさにペレイラが求める現代的なサイドバックの資質そのものだ。チャンピオンシップという激しいリーグで培われたフィジカルの強さも、プレミアリーグへの適応を容易にするだろう。
もう一つ注目すべきは、ファン・エヴァイクの多様性だ。右サイドバックだけでなく、中盤でもプレー可能な柔軟性は、シーズンを通じて戦術的なオプションを増やしてくれる。怪我人が出やすいプレミアリーグにおいて、複数のポジションをこなせる選手の価値は計り知れない。
ウルブスにとって重要なのは、決断のタイミングだ。ヴォルフスブルクの動きが本格化する前に、そしてコヴェントリーが他のオファーを受ける前に、アクションを起こす必要がある。移籍期限の9月1日まではまだ時間があるが、チーム作りの観点から見れば、早期の補強完了が理想的だろう。
コヴェントリーからのオファーという形で舞い込んできたこの機会を、ウルブスがどう判断するか。その決断が、今季のチームの命運を左右することになるかもしれない。