プレミアリーグ昇格を果たしたサンダーランドが、今夏の移籍市場で再び大胆な一手を仕掛けようとしている。ターゲットは、バイエルン・ミュンヘンに所属する24歳のフランス人右サイドバック、サシャ・ボエだ。これまでに1億4000万ポンド超という破格の投資を敢行してきたブラック・キャッツが、さらなる補強に向けて動き出した。
だが、この争奪戦は決して平坦な道のりではない。ボエの古巣であるガラタサライが復帰を強く望んでいるほか、バイエルン側からは選手自身が残留を希望しているという報道も出ている。それでも複数のメディアが報じているところによると、サンダーランドはボエ側との接触を図っており、プレミアリーグ復帰への本格的な補強策として具体的なアプローチを検討している。
サンダーランドの破格投資が示す本気度
レジス・ル・ブリス監督率いるサンダーランドは、5月24日にシェフィールド・ユナイテッドを2-1で破ってプレミアリーグ昇格を果たした後、この夏の移籍市場において前例のない規模の投資を実行している。グラニト・ジャカの獲得に1730万ポンド、アビブ・ディアッラには3000万ポンド、シモン・アディンラに2000万ポンドと、まさに桁違いの資金力を見せつけている。これらの選手たちはいずれもプレミアリーグでの即戦力として期待される実力者ばかりだ。
特にジャカの獲得は衝撃的だった。バイエル・レヴァークーゼンでブンデスリーガ無敗優勝の立役者となったスイス代表キャプテンが、昇格チームを選んだ背景には、サンダーランドの野心的なプロジェクトへの信頼がある。ジャカ自身も「クラブと話した時、エネルギーと全ての人々が持つメンタリティを感じた。まさに私が求めていたものだった」と語っており、金銭面を超えた魅力がサンダーランドにはあることを物語っている。
ボエ獲得に向けた動きも、この延長線上にある。現在の市場価値1800万ユーロとされる彼の獲得は、サンダーランドにとって決して不可能な数字ではない。むしろ、右サイドバックというポジションの重要性を考えれば、コストパフォーマンスに優れた投資と言えるだろう。
ガラタサライとの因縁の対決
一方で、ボエ争奪戦を複雑にしているのが、彼の古巣ガラタサライの存在だ。2024年1月にバイエルンに3000万ユーロで売却したフランス人サイドバックを、トルコの名門は強く呼び戻したがっている。
トルコ紙『Sports Digitale』の情報によると、ガラタサライは既にバイエルンとボエ本人の両方とコンタクトを取っており、ローン移籍にオプション付きの買取条項という形での獲得を模索している。
しかし、ここで大きな障壁となっているのが移籍金と選手本人の意向だ。バイエルンは2000万から2500万ユーロの移籍金を要求しているが、ガラタサライはこの金額の支払いに難色を示している。
さらに複雑な要素として、ボエ自身がバイエルンでのポジション争いを続けたい意向を示しているという。一方のサンダーランドは、これまでの移籍活動を見る限り、この程度の金額であれば十分に対応可能な資金力を持っている。
ボエ自身の心境も興味深いポイントだ。彼はバイエルンを離れることに前向きで、特にフランスへの復帰を希望している意向も伝えられている。リヨン、マルセイユ、ニースといったリーグ・アンといったクラブも彼のプロフィールを検討しているが、フランスのクラブが抱える財政的な制約を考えると、プレミアリーグの資金力は大きなアドバンテージとなる。
ボエの現状とポテンシャル
バイエルンでのボエの1年半は、決して順風満帆ではなかった。トーマス・トゥヘル前監督、そして現在のヴィンセント・コンパニー監督の下でも、彼は第一選択の右サイドバックとしての地位を確立できずにいる。
しかし、これは裏を返せば、まだ24歳という若さで伸び代が十分にあることを意味している。ガラタサライ時代には右サイドバックとして圧倒的な存在感を示し、攻撃参加とディフェンス面でのバランスの取れたプレーで注目を集めた選手だ。バイエルンという世界最高峰のクラブで揉まれた経験は、決して無駄にはならないはずだ。
特にサンダーランドのような昇格チームにとって、彼のような経験豊富な選手の存在は計り知れない価値がある。チャンピオンズリーグでの経験、そしてバイエルンという巨大クラブでのプレッシャーを知る選手が加わることで、チーム全体のレベルアップが期待できる。
サンダーランドがボエ獲得に成功すれば、それは戦力補強を大きく超える意味を持つだろう。プレミアリーグに復帰したクラブが、欧州のトップクラブから現役の選手を引き抜く。これまでの昇格チームの常識を覆す、まさに革命的な出来事と言える。一方で、ガラタサライとの競争は激しく、最終的な決断はボエ本人の意向に委ねられる部分も大きい。
個人的な見解
この移籍が実現すれば、プレミアリーグの新たなトレンドの始まりを告げる象徴的な出来事になると考えている。従来、昇格チームは限られた予算の中で現実的な補強を強いられてきた。しかし、サンダーランドのアプローチは明らかに違う。彼らは生き残りではなく、確実な定着を目指している。
ボエ獲得が成功すれば、サンダーランドの右サイドは一気に欧州レベルの品質を手に入れることになる。ジャカとのコンビネーション、そしてアディングラやアビブ・ディアッラといった新戦力との連携は、レ・ブリス監督の戦術的な幅を大きく広げるはずだ。
むしろ、この投資によってサンダーランドは、プレミアリーグの新参者から本格的な一員へと生まれ変わる可能性を秘めている。それこそが、彼らが今夏描いている真の青写真なのかもしれない。