チャンピオンズリーグの舞台でその輝きを放ったアストン・ヴィラの翼が、今度はイタリアの首都で羽ばたこうとしている。レオン・ベイリーを巡る移籍劇が、夏の終盤に差し掛かった今、急速に動き始めた。
英『The Athletic』が報じたところによると、ASローマがヴィラのジャマイカ代表ウィンガー獲得に向けて本格的な交渉を開始。トルコのベシクタシュやサウジアラビアプロリーグのクラブとの競争を制し、最有力候補として浮上している。
28歳のベイリーにとって、この移籍は新たなキャリアの分岐点となる。2021年8月にバイエル・レバークーゼンから約3000万ポンドという大金でヴィラ・パークに降り立った時の期待値と、現在の立ち位置には明らかな乖離がある。2024-25シーズンのプレミアリーグでは24試合出場を果たしたものの、先発出場はわずか14試合。さらに深刻なのは、リーグ戦でのゴールとアシストの合計がわずか3つという低調なパフォーマンスだった。
ガスペリーニ新体制、ベイリーに理想的な舞台
ベイリー獲得を巡る状況は、ここ数週間で劇的に変化した。6月にジャン・ピエロ・ガスペリーニがローマの新監督に就任したことで、移籍交渉は新たな局面を迎えている。アタランタで9年間にわたって革新的な攻撃サッカーを展開し、2024年のヨーロッパリーグ制覇を成し遂げた67歳の戦術家は、ローマでも持前の3-4-3システムを導入予定。
ガスペリーニの戦術哲学は、ベイリーの特性と驚くほど合致している。アタランタで見せた流動的なポジションチェンジと、ウイングバックが高い位置まで駆け上がる攻撃的システムは、ベイリーの爆発的なスピードと1対1の突破力を最大限に活かせる環境だ。
何よりガスペリーニは選手育成の名手として知られ、ラスムス・ホイルンドやアデモラ・ルックマンといった若手タレントを世界レベルまで押し上げた実績がある。
当初はベシクタシュが積極的なアプローチを見せ、オーレ・グンナー・スールシャール監督の下でのプレーが予想されていた。また、資金力豊富なサウジアラビアプロリーグからも複数のオファーが予想されていたが、ガスペリーニ率いるローマの参戦により構図は一変。戦術的魅力と欧州カップ戦への出場機会が、他クラブを圧倒する要素となっている。
注目すべきは、まだ正式なオファーが行われていないこと。現在はヴィラとローマの間で条件面の詰めが行われており、移籍金や契約条件について慎重な調整が続いている。ヴィラ側は約3000万ポンド程度での売却を検討しており、ベイリーの週給12万ポンドという高額な給与も移籍を後押しする要因となっている。
エメリ構想外からの脱出、セリエAで新天地
ウナイ・エメリ監督就任以降、ベイリーの立ち位置は微妙に変化した。2022年秋にエメリがヴィラの指揮を執って以来、チームは劇的な変貌を遂げた。2023-24シーズンにはプレミアリーグ4位でチャンピオンズリーグ出場権を獲得し、カンファレンスリーグでは準決勝まで進出。この躍進の陰で、ベイリーの出場機会は徐々に減少していった。
エメリの好むハイプレスシステムでは、ウィンガーにも守備での貢献が強く求められる。ベイリーの攻撃的才能は疑いようがないものの、守備面での一貫性や戦術理解度において、他の選手に後れを取る場面が目立つようになった。
昨シーズン終盤には怪我や体調不良も重なり、コンディション面での課題も露呈。2024-25シーズンのスタートでも数回の打撃に見舞われ、完全復活への道のりの険しさを物語っている。
興味深いのは、エヴァン・ゲサンの新加入により、ベイリーの立場がさらに微妙になっていることだ。モルガン・ロジャースの台頭、ドニエル・マレンの加入など、攻撃的ポジションの競争は激化の一途を辿っている。
アレックス・モレノやレアンデル・デンドンケルと並んで移籍可能リストに名を連ねていることが、クラブの方針を如実に示している。
ヴィラでの144試合出場、22ゴール24アシストという数字は決して悪くない。特にチャンピオンズリーグ出場権獲得に貢献した功績は評価されるべきだろう。しかし、2027年まで契約を延長したばかりにも関わらず放出検討の対象となっているのは、エメリの明確なビジョンが背景にある。
レオン・ベイリーのローマ移籍が実現すれば、これは彼のキャリアにとって理想的なターニングポイントになる可能性が高い。ガスペリーニのシステムは、ベイリーの持つ爆発的なスピードとドリブル技術を最大限に活かせる環境を提供してくれる。
セリエAの戦術的深度と、相対的に落ち着いたゲームテンポは、プレミアリーグの激しいフィジカルコンタクトに疲弊したベイリーにとって新たな可能性を開くはず。
特に、ガスペリーニが好む3-4-3システムでは、ウイング攻撃手に与えられる自由度が格段に高い。アタランタ時代に見せた流動的なポジションチェンジと、常に数的優位を作り出す戦術は、ベイリーの個人能力を活かしつつチーム戦術に組み込む理想的な環境。
一方で、ヴィラにとってもこの移籍は合理的な判断となる。3000万ポンドという移籍金を原資として、エメリのシステムにより適合する選手の獲得を進められる。
長期的なチーム作りを考えれば、戦術的にフィットしない高給取りを手放すことで、より効率的なスカッド構築が可能になる。ローマでベイリーが本来の輝きを取り戻せば、両クラブにとって理想的な取引として記憶されることになるだろう。