マンチェスター・ユナイテッドが、21歳の逸材ひとりに手こずっている。カルロス・バレバ。この名前が今夏の移籍市場で最も熱い議論を呼んでいるのは、彼がただの有望株を超越した存在だからに他ならない。
ブライトンが突きつけた1億ポンドを超える価格設定は、決して法外な要求ではない。それは冷徹な市場価値の反映であり、プレミアリーグで最も進化したタレントへの正当な評価なのだ。
ブライトンが描く戦略的売却シナリオとバレバの市場価値
ファブリツィオ・ロマーノ氏が報じた通り、マンチェスター・ユナイテッドからの公式接触に対するブライトンの回答は明確だった。売却の意思なし、価格提示すら拒否。この強硬姿勢の背景には、モイセス・カイセドで1億1500万ポンドという移籍金記録を樹立した成功体験がある。
🚨 Manchester United made official and formal contact with Brighton today for Carlos Baleba, as expected.
— Fabrizio Romano (@FabrizioRomano) August 15, 2025
Clear answer from #BHAFC: no intention to sell, not even indicating a price for this
summer.
Man United now expected to turn attention to different targets. pic.twitter.com/l0QQguSJ2S
ブライトンが吹っ掛けた金額の1億ポンド以上はそこまで法外とも言い切れない。昨シーズンの統計を見れば一目瞭然。プレミアリーグ61試合で3得点1アシスト、1試合平均6.5回のポジション奪取はMF陣で7位の数値を記録している。タックル成功率55%、インターセプト64回という守備スタッツに加えて、ドリブルとボールキャリー能力では同ポジションでエンソ・フェルナンデスに次ぐ数値を叩き出している。
特筆すべきは、4月のウェストハム戦で決めた劇的な勝ち越し弾がプレミアリーグの「Goal of the Month」に選出された事実。ボックス外からの豪快なシュートは、彼の技術的進歩を象徴している。昨シーズンのブライトン「Young Player of the Season」受賞も、クラブ内での評価の高さを物語っている。
ファビアン・ヒュルツェラー監督が公言した「バレバを失うことを恐れていない」という発言は、ブライトンの余裕を示している。2028年まで契約を残し、さらに1年延長オプションも保持している状況では、今夏の売却を急ぐ理由は皆無。むしろ、さらなる成長を遂げた来夏に、より高額での売却を狙っているとみるのが自然だろう。
マンUの予算制約が露呈した現代移籍市場の現実
一方のマンチェスター・ユナイテッドが直面しているのは、INEOS体制下での厳格な予算管理。既に今夏の移籍市場で2億ポンド近くを投じており、ベンヤミン・シェシュコの7370万ポンドでの獲得が決定的となった現在、バレバに1億ポンドを支払う余力は限定的。
ユナイテッドはすでに代替案の検討に入っている。クリスタル・パレスのアダム・ウォートン、さらにはモルテン・ヒュルマンド、アンジェロ・スティラー、ハビ・ゲラなど複数の候補リストが挙がっている。
しかし、これらの選択肢がバレバの代替となりうるかは疑問が残る。バレバが持つユニークな組み合わせ──フィジカルの強さ、ボール奪取能力、そして繊細なテクニック──を兼ね備えた選手は市場にそう多くない。
特に彼の進歩スピードは驚異的で、リール時代に自身が「守備面では理解がゼロだった」と振り返った3年前から考えれば、その成長曲線は今後も右肩上がりを続ける可能性が高い。
バレバ自身はユナイテッド移籍に「非常に興味を示している」とされるが、それでもブライトンとの契約状況を考えれば実現は困難となる。選手を含めた交換取引を検討しているという報道もあるが、ブライトンにとって魅力的な駒を持っているかは疑わしい。
個人的な見解
この移籍劇が示しているのは、現代サッカー界の新たな力関係だ。ブライトンのような中堅クラブが、マンチェスター・ユナイテッドのようなビッグクラブと対等以上の交渉力を持つ時代が到来している。優秀なスカウティング、戦術的育成、そして冷静な市場分析によって、彼らは移籍市場の勝者となっているのだ。
私の見解として、この移籍が今夏実現する可能性は極めて低いと考えている。ブライトンが要求する1億ポンドという金額は、バレバの真の価値を反映した適正価格だが、ユナイテッドの現在の財政状況では到底手が届かない。
PSR規則の制約下で大型補強を続けてきたユナイテッドにとって、これ以上の大型投資は危険すぎる賭けとなる。
むしろ興味深いのは、この移籍劇が示す構造的変化だ。ブライトンのような「育成型クラブ」が、従来のヒエラルキーを覆している現実こそが注目に値する。彼らは中間業者の立場を超越し、トップレベルのタレントを育て上げ、適正価格で売却する新しいビジネスモデルを確立している。
バレバという逸材をめぐる今回の攻防は、その象徴的な事例として記憶されるだろう。来夏、さらに成長したバレバがどのような値段で売却されるのか。そして本気で彼を獲得するつもりなら、今とは全く異なる資金調達戦略が必要になることは間違いない。