エミレーツ・スタジアムに漂っていた楽観的な空気が一変した。アーセナルが長年にわたって熱視線を送り続けてきたフレンキー・デ・ヨングの獲得計画に、深刻な暗雲が立ち込めている。バルセロナとの契約延長交渉が大詰めを迎え、2029年半ばまでの新契約締結が現実味を帯びてきた。
デ・ヨングサイドはバルセロナ残留の意思を固めており、代理人に対して他クラブからのアプローチを一切受けないよう明確な指示を出している。
28歳のオランダ代表は現在の契約を2026年夏まで残しているものの、フリック監督からの絶対的な信頼とクラブからの新たな契約提示により、カンプ・ノウでのキャリア継続がほぼ確実な情勢となった。
アーセナルの中盤戦略に立ちはだかる現実
アルテタ監督が描いてきた理想的な中盤構想において、デ・ヨングの存在は欠かせないピースだった。今夏にマルティン・スビメンディという大型補強を成功させたガナーズにとって、デクラン・ライス、スビメンディ、そしてデ・ヨングという三角形は、プレミアリーグとチャンピオンズリーグの両戦線で戦い抜く理想的な陣容を意味していた。
しかし、現実はアーセナルにとって厳しいものとなりそうだ。デ・ヨングが見せるバルセロナへの忠誠心は、プレミアリーグクラブが提示するどんな好条件をも上回る強固な絆を物語っている。フリック監督は公の場で「彼は常に残留を希望している」と明言しており、クラブ首脳陣もデ・ヨングを「プロジェクトの要」と位置づける姿勢を鮮明にしている。
アーセナルが描いていたシナリオは、デ・ヨングのボスマン移籍を狙った長期戦略だった。しかし、バルセロナが年俸1900万ユーロという現行条件を維持したまま契約延長を提示したことで、この戦略は根本から見直しを迫られることになったと、スペイン紙『Fichajes』が報じた。
移籍市場での新たな選択肢模索が急務
アーセナルの関心は決して一朝一夕のものではない。数年前からデ・ヨングの動向を追い続け、獲得の機会を窺ってきた経緯がある。しかし、バルセロナでの立場が確固たるものとなった現在、アルテタ監督は代替案の検討を余儀なくされている。
マルク・カサド等の若手選手への関心も並行して報じられている。これは、デ・ヨング獲得が困難になった場合のバックアッププランとして、より現実的なターゲットへの方向転換を示唆している可能性がある。ただし、カサドもまたバルセロナの有望株であり、獲得難易度は決して低くない。
デ・ヨングの契約延長が正式に発表されれば、アーセナルは他の選択肢に目を向けざるを得ない。プレミアリーグでの競争力維持と長期的な成功を考えれば、中盤の補強は待ったなしの課題であり、移籍市場での迅速な判断が求められる状況となっている。
個人的な見解
デ・ヨングのバルセロナ残留は彼のキャリアにとって最良の選択であり、同時にアーセナルにとっては痛恨の機会損失となるだろう。オランダ代表の技術的な完成度とバルセロナスタイルとの親和性を考えれば、カンプ・ノウこそが彼の真価を最大限発揮できる舞台であることは疑いない。
プレミアリーグのフィジカルな環境への適応リスクを考慮すれば、28歳という年齢での大きな環境変化は必ずしも合理的とは言えない面もある。
一方で、アーセナルの立場から見れば、デ・ヨング獲得の頓挫は戦略の大幅な見直しを迫る重大な事態だ。スビメンディという確実な戦力は手に入れたものの、理想とする中盤の完成形からは程遠い状況に置かれている。
アルテタ監督の手腕が真に問われるのはここからであり、限られた予算と時間の中で、どれだけ創造的な解決策を見つけ出せるかが今後の成否を左右することになるだろう。移籍市場の現実は時として残酷だが、それもまたサッカー界の醍醐味の一部なのかもしれない。