ボルシア・ドルトムントでのローン期間中、チャンピオンズリーグ決勝の舞台でレアル・マドリードと激突したイアン・マートセン。あの夜のウェンブリーで披露した冷静沈着なプレーは、23歳という若さを微塵も感じさせない圧倒的な存在感を放っていた。
そのマートセンに今、セリエAの雄アタランタが本格的な関心を寄せている。イタリアメディア『Tutto Atalanta』の報道によれば、イヴァン・ユリッチ監督率いるアタランタは左サイドバックの戦力アップを夏の最重要課題に位置づけ、アストン・ビラに所属するオランダ代表の万能戦士を標的に据えたという。
ガスペリーニ時代の遺産を引き継ぎながらも、独自の戦術哲学を注入しようと模索するユリッチにとって、マートセンは理想的なピースになり得る。攻撃参加の積極性と守備時の献身性を兼ね備えた現代的なフルバックこそ、アタランタの高強度サッカーには欠かせない存在だからだ。交渉はまだ緒に就いたばかりだが、この移籍が実現すれば、両者にとって新たな扉が開かれることになる。
ドルトムントで開花した才能、オランダ代表でも即座に結果
マートセンの名前が欧州全土に響き渡ったのは、間違いなく2024年前半のドルトムントでの半年間だった。チェルシーではスペイン代表DFマルク・ククレジャらに出番を阻まれ、持ち前の能力を存分に発揮する機会に恵まれずにいた左足の巧者は、ドイツの地で真骨頂を見せつけた。
わずか6ヶ月という短期決戦でレギュラーポジションを奪取し、黄色と黒の軍団をヨーロッパ最高峰の舞台まで押し上げる原動力となった。
ドルトムントでの躍動ぶりを紐解けば、マートセンの特質が鮮明に浮かび上がる。高い位置でのプレッシング発動時には迷いなくオーバーラップを敢行し、相手の速攻を察知すれば電光石火の戻りでバランスを修復する。
この攻守両面での機敏な判断力こそ、現代フットボールが求めるサイドバック像そのものだった。チャンピオンズリーグ決勝のレアル・マドリード戦でも臆することなく持ち味を発揮し、世界最高レベルでも通用する器であることを実証した。
その実績が評価され、2025年3月にはオランダ代表デビューの栄誉に輝いた。UEFAネーションズリーグのスペイン戦では、記念すべき初キャップで初ゴールという完璧なスタートを飾っている。左サイドからのカットイン後、右足で叩き込んだそのゴールシーンには、技術の確かさに加えて極限のプレッシャー下でも動じないメンタルの強靭さが凝縮されていた。
アストン・ビラはこの逸材の将来性に賭け、チェルシーから3750万ポンドという巨額を投じて完全移籍での獲得に踏み切った。プレミアリーグでは堅実なパフォーマンスを積み重ね、ヨーロッパリーグでもクオリティの高さを証明している。
アタランタの新戦術とマートセンの適合性
ユリッチ体制下のアタランタにとって、マートセンの獲得は戦術的観点から極めて合理的な選択肢となる。ガスペリーニから引き継いだハイプレッシングとアグレッシブな攻撃スタイルを基盤としながら、ユリッチは独自のエッセンスを加味したサッカーを志向している。この新体制において、ウィングバックのポジションには攻守のバランス感覚に長けた選手が不可欠であり、マートセンの資質は完璧にマッチする。
特にマートセンが武器とする縦への駆け上がりは、アタランタの得意とするカウンター攻撃に鋭さをもたらす可能性を秘めている。左足から繰り出されるピンポイントクロスはもちろん、右サイドでも機能するユーティリティ性は、激戦を戦い抜くクラブの戦力ローテーションにも貢献するだろう。
さらに、チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグといった国際舞台での豊富な経験値は、ヨーロッパカップ戦への復帰を目論むアタランタにとって貴重な財産になるはず。
現在のアタランタは、セリエAでの地位確立を果たしつつ、さらなる高峰への挑戦を見据えている局面にある。マートセンのような若手実力者の加入は、チーム全体の競争力押し上げに直結するのみならず、中長期的な戦力価値の向上という側面でも魅力的な投資になる。まだ交渉は初期段階との情報だが、双方の利害が一致すれば、今夏の移籍マーケットでも話題の中心となりそうだ。
個人的な見解
率直に申し上げて、マートセンのアタランタ移籍は彼のキャリア形成にとって絶好の機会だと思う。プレミアリーグでの1シーズンを通じて適応能力を実証し、オランダ代表でも着実に階段を上った今こそ、新天地での挑戦に臨む最適なタイミングだろう。
アタランタの戦術システムは彼の攻撃的な天性を最大限に引き出せる環境であり、セリエAという戦術的に洗練されたリーグでの経験は、さらなる飛躍を促す触媒となるに違いない。特にユリッチ監督の薫陶を受ければ、守備面での精度も向上し、より完成度の高いモダンサイドバックへの進化を遂げられると期待している。
一方で、アストン・ビラの立場から眺めれば、わずか1年でのマートセン手放しは性急な判断にも映る。3750万ポンドという先行投資を考慮すれば、もう1シーズンは彼の成長を見守りたいところだろう。
しかし、選手本人のキャリアビジョンや、アタランタからの具体的なオファー内容次第では、予想外の早期決着もあり得る。いずれにせよ、この移籍劇は今夏の欧州サッカー界における注目ストーリーの一つとして、最終盤まで目が離せない展開を見せそうだ。