チェルシー戦のピッチで躍動するエベレチ・エゼの姿を見つめながら、トッテナムのスカウト陣は確信を深めていたはず。6800万ポンドの解除条項が8月15日に期限切れとなった今、この27歳のイングランド代表攻撃的ミッドフィルダーを巡る駆け引きは新たな局面を迎えている。
『Sky Sports』が報じたところによると、クリスタル・パレスはエゼの後釜確保を最優先事項として位置づけている。ビラル・エル・カンヌス(レスター)やクリストス・ツォリス(クラブ・ブルッヘ)といった有力候補との交渉を並行して進めており、これがエゼ放出の前提条件となっている。
オリヴァー・グラスナー監督は記者会見で「インターネットで読んだことを全て信じてはいけない」と牽制しつつも、エゼの解除条項失効を公式に認めた。この発言は、パレスが主導権を握り続けたいという意図の表れだろう。
マディソン負傷がもたらしたエゼ獲得の必然性
ジェームズ・マディソンの前十字靭帯損傷という衝撃的なニュースが、トッテナムのエゼ獲得を加速させている。プレシーズンで負った長期離脱が確定的となったことで、トーマス・フランク監督率いるスパーズにとって創造性豊かな攻撃的ミッドフィルダーの補強は喫緊の課題となった。昨季14ゴール11アシストという驚異的な数字を残したエゼこそ、マディソンの穴を埋める理想的な人材である。
トッテナムは5500万ポンドにアドオンを上乗せしたパッケージでの獲得を検討している。解除条項の6800万ポンドより1300万ポンド低い金額だが、パレス側の立場を考慮すれば現実的な提示額といえる。エゼ本人がトッテナム移籍を強く希望していることは複数のメディアが報じている。
ヨーロッパリーグ王者の新戦力として
トッテナムにとってエゼ獲得は、戦力補強を超えた意味を持つ。今年5月にマンチェスター・ユナイテッドを1-0で下してヨーロッパリーグ制覇を果たしたスパーズが、さらなる高みを目指すための象徴的な補強となるからだ。
17年ぶりのメジャータイトル獲得で自信を深めたチームにエゼが加われば、来季のチャンピオンズリーグでその才能を発揮する準備は整っている。
エゼは解除条項失効後もチェルシー戦にスタメン出場した。一部では出場を拒否するのではないかとの憶測もあったが、プロとしての責任感を示した形となった。
グラスナー監督は試合後、「彼はクリスタル・パレスの選手であり、優秀なクリスタル・パレスの選手だ。一週間しっかりと練習したので、彼を選ばない理由はなかった」とコメント。この発言からは、エゼの移籍意思を認識しつつも、クラブとしての立場を崩さない巧妙なバランス感覚が窺える。
サシャ・タヴォリエリ氏の情報によれば、パレスのスティーブ・パリッシュ会長はエゼに対し、適切な条件が整えば移籍を妨げないことを約束したという。この姿勢は、昨季のFAカップ優勝とコミュニティシールド制覇という歴史的快挙を成し遂げたエゼへの敬意の表れでもある。
5月のマンチェスター・シティ戦で決勝ゴールを決め、8月のリヴァプール戦でもコミュニティシールド優勝に貢献したエゼは、パレスファンの記憶に永遠に刻まれる存在となっている。
27歳という年齢は経験と成長ポテンシャルが両立する黄金期であり、チャンピオンズリーグという最高峰の舞台でその才能を発揮する準備は整っている。パレスが後釜選手の獲得に時間をかけることは理解できるが、移籍市場の締切が9月1日に迫る中、時間的制約も無視できない要素となっている。エゼの去就を巡る駆け引きは、プレミアリーグの夏の移籍市場における最後の大きなドラマの一つとなりそうだ。
個人的な見解
長らくクリスタル・パレスの攻撃的の中心を担ってきたイングランド代表MFにとって、ステップアップの時期が近づているのは否めない。
解除条項という明確な基準があったにも関わらず、それが失効した後の交渉において、選手の意思がいかに重要な要素となるかを如実に示している。エゼ本人がトッテナム移籍を強く望んでいることは疑いようがなく、この状況下でパレスが強硬姿勢を貫くことは現実的ではないだろう。
長期的な視点で見れば、プレミアリーグの勢力図にも影響を与える可能性がある。トッテナムがエゼ獲得に成功すれば、攻撃陣の多様性と創造性が格段に向上し、タイトル争いにおける有力候補としての地位を確固たるものとするはずだ。
ヨーロッパリーグ制覇の勢いを維持しながら、エゼという新たな武器を手に入れることで、フランク監督の革新的な戦術がさらに活かされることになる。
一方でパレスにとっては、適切な後釜を確保できるかどうかが来季の成否を左右する重要な分岐点となる。エゼという唯一無二の才能を失うリスクを最小限に抑えるため、パレスの首脳陣は慎重かつ迅速な判断が求められている局面にある。