トッテナムが今夏の移籍市場で味わった屈辱を、韓国の至宝で晴らそうとしている。エベレチ・エゼをアーセナルに奪われた痛手から立ち直るべく、スパーズが仕掛けた次の一手は、5000万ユーロでのパリ・サンジェルマンで燻っているイ・ガンインの獲得だ。
ジェームス・マディソンの右膝ACL断裂とデヤン・クルゼフスキーの膝蓋骨手術により、トッテナムの創造性は深刻な危機に瀕している。トーマス・フランク監督の攻撃的サッカーを支える核となる選手たちが相次いで離脱する中、クラブは緊急事態に追い込まれた。
『The Transfers Podcast』が伝えるところによると、スパーズはエゼ獲得に最大7800万ユーロを用意していたが、最終的にライバルであるアーセナルが6750万ポンドでその座を射止めた。この敗北は、ダニエル・レヴィ会長にとって看過できない事態となっている。
イ・ガンイン獲得の戦略的意義と市場価値
イ・ガンインという選択は、トッテナムにとって多層的な価値をもたらす可能性を秘めている。24歳の韓国代表は、PSGでベンチを温める機会が多かったものの、その技術力と創造性は疑いようがない。左足から繰り出される精密なパスと、狭いスペースでのドリブル突破は、フランクが求める高速カウンターアタックに完璧にマッチする要素だ。
特筆すべきは、ソン・フンミンのLAFC移籍により失った韓国市場での商業価値を即座に取り戻せる点。韓国ファンからの絶大な支持を受けていたソンの移籍は、クラブにとって財政的にも大きな打撃となった。2650万ドルという移籍金でMLSの移籍記録を更新したソンの移籍後、イ・ガンインの加入は、この穴を埋める以上の効果をもたらすはずだ。
PSG側の売却意欲も、この移籍を後押ししている要因。クラブは彼を手放すことに消極的ではなく、適切なオファーがあれば交渉のテーブルに着く準備ができている。5000万ユーロという金額は、モナコのマグネス・アクリウシュの7000万ユーロやサヴィーニョと比較しても現実的な水準に設定されている。
エゼ失敗からの教訓と移籍戦略の見直し
エベレチ・エゼ獲得の失敗は、トッテナムにとって痛烈な教訓となった。クリスタル・パレスのエースは最終的にアーセナルを選択し、6750万ポンドという巨額投資も水の泡と消えた。この敗北が意味するのは、金額勝負だけでは限界があるということだ。選手が求めているのは、プロジェクトへの共感と将来性なのである。
イ・ガンイン獲得においては、この教訓が活かされなければならない。PSGでの出場機会に恵まれなかった彼にとって、フランクの下でレギュラーポジションを掴むチャンスは魅力的に映るはずだ。トッテナムが提示できるのは、即戦力としての期待と、チームの中心選手としての地位だ。
さらに、モーガン・ギブス＝ホワイトの獲得にも失敗している現状を考慮すると、クラブの移籍戦略には根本的な見直しが必要となる。9月1日の移籍期限まで残り時間は限られており、スパーズには迅速な決断が求められている。アクリウシュという選択肢も残されているが、彼の代理人が交渉困難で知られている点は懸念材料だ。
トッテナムのこの夏の移籍戦略を振り返ると、計画性よりも場当たり的な対応が目立っている印象は拭えない。エゼという第一候補を失った時点で、すでに代替プランが用意されているべきだったのではないだろうか。イ・ガンイン獲得が実現すれば結果オーライとなるが、クラブの長期的なビジョンと移籍戦略の整合性については疑問が残る。
それでも、韓国の技術者が持つポテンシャルは計り知れない。マンチェスター・シティで成功を収めた経験があり、代表チームでも中心的な役割を担っている彼であれば、プレミアリーグの激しいリズムにも対応できるはず。
フランクが求める高強度プレッシングと速攻サッカーに、イ・ガンインの創造性が加われば、トッテナムの攻撃陣は一気に活性化される可能性が高い。最終的に、この移籍がクラブの浮沈を分ける重要な分岐点になるかもしれない。