週給30万ポンドの重荷が、ラヒーム・スターリングの首にずっしりと圧し掛かっている。チェルシーでの失望、アーセナルでのさらなる挫折を経て、30歳のウインガーは今、キャリア最大の正念場を迎えている。イスタンブールの黒鷲が羽ばたこうとする中、彼の心はまだロンドンの空にとどまっている。
英『CaughtOffside』の独占情報によれば、ベシクタシュが数日以内にロンドンへ代表団を派遣し、スターリング獲得に向けて決定的な一歩を踏み出す。
ナポリがローン移籍に留まり、フラムとウェストハムが様子見を続ける中、トルコの名門だけが積極的に動いている。しかし、選手本人の気持ちは複雑だ。家族と共に築いたロンドンでの生活基盤を捨てることは、金銭面での条件以上に重い決断となる。
ベシクタシュの本気度が物語るスターリングへの期待値
黒鷲軍団の動きには一切の迷いがない。他クラブが慎重な態度を崩さない中、ベシクタシュだけが具体的なアクションプランを実行している。これは偶然でも思いつきでもない。セルダル・アダル会長自らが交渉の陣頭指揮を執り、スターリングをクラブの象徴的な補強として位置付けている。
トルコリーグにとって、元イングランド代表の獲得は戦略的な側面がある。ガラタサライがレロイ・サネの獲得を実現し、フェネルバフチェも大型補強を画策する中、ベシクタシュも対抗馬を求めていた。スターリングの名前は、国際的な注目度を高める格好の材料となる。
チェルシーが設定した2000万ポンド超の要求額も、ベシクタシュには手の届く範囲内だ。既にミッドフィールダーとしてウィルフレッド・ディディの獲得を成功させた同クラブは、今度は攻撃陣の強化に本格的な投資を準備している。問題は金額ではなく、選手本人の意向にある。
スターリング本人は明確にプレミアリーグ残留を希望し、特にロンドンでの生活継続に強い願望を示している。妻と子どもたちが築いた生活環境、慣れ親しんだ首都の文化、そして何より、まだプレミアリーグで成し遂げたいことがあるという思いが、彼をロンドンに縛り付けている。
チェルシーの思惑とスターリングの苦悩が交錯する現実
チェルシーの立場は明快。週給30万ポンドの高額契約を抱えるスターリングを、どんな形でも手放したい。クラブはローン移籍も辞さない姿勢を示しているが、できれば完全移籍を望んでいる。この点で、ベシクタシュの永続契約への意欲は、チェルシーにとって魅力的な提案となっている。
一方、フラムとの交渉は難航している。コテージでの移籍話は現時点で可能性が低い状況だ。最大の要因は、やはり給与面での折り合いがつかないことにある。フラムがローン移籍を希望する中、チェルシーが給与の一部負担を求められれば、根本的な問題解決にはならない。
スターリングの現状を振り返れば、彼の苦境は戦術的な不適合に起因している。マンチェスター・シティ時代の彼は、ペップ・グアルディオラの精密な戦術システムの中で真価を発揮した。4シーズンで91ゴール、62アシストという圧倒的な数字が、彼の本来の実力を証明している。
チェルシーでの2年間、そしてアーセナルでのローン期間中にも、その能力は完全には失われていない。問題は環境だ。頻繁な監督交代、戦術的な混乱、明確な役割の欠如が、彼の持つスピードと決定力を封じ込めてしまった。ベシクタシュでの新天地は、封印された才能を解き放つ鍵となるかもしれない。
トルコリーグの特徴も、30歳のベテランウインガーには有利に働く。プレミアリーグのような激しいプレスがなく、技術とスピードを活かしやすい戦術環境は、キャリア晩期のスターリングには理想的だ。さらに、ヨーロッパリーグでの戦いは、2026年ワールドカップに向けたイングランド代表復帰への道筋も示してくれる。
エンツォ・マレスカ監督の下で明確に戦力外通告を受けたスターリングは、現在チームの「ローン組」と呼ばれるグループで練習を続けている。
個人的な見解
スターリングのベシクタシュ移籍は、現実的な選択肢として真剣に検討すべき局面に差し掛かっている。彼がプレミアリーグでの復活を夢見る気持ちは理解できるが、現状では夢物語に近い。チェルシーでの期待外れ、アーセナルでの絶望的な結果を考えれば、環境を一新することが最も賢明な判断だ。
ベシクタシュという舞台は、スターリングにとって完璧な再出発の場を提供する。トルコリーグのレベルは決して侮れないものの、プレミアリーグほどの肉体的な消耗はない。
技術とスピードに秀でた彼なら、確実に結果を残せる環境が整っている。イスタンブールの情熱的なサポーター文化、ヨーロッパリーグでの挑戦、そしてリーグタイトル争いへの参戦は、新たなモチベーションの源となるはずだ。
ただし、家族の幸福を犠牲にしてまで移籍を強行することには疑問が残る。妻と子どもたちがロンドンでの生活に満足している以上、その意向を無視することはできない。
しかし、サッカー選手としての彼の人生には限りがある。30歳という年齢を考慮すれば、残された時間で最大の成果を求めることも、また家族への責任の一つではないか。スターリングの最終決断が、彼のキャリアの残り時間を決定づけることになる。その重みを理解した上で、彼には勇気ある一歩を踏み出してもらいたい。