エベレチ・エゼのアーセナル移籍に伴い、クリスタル・パレスの司令塔としてさらなる活躍が期待される21歳MFアダム・ウォートンが、欧州屈指のビッグクラブ4つ巴の火花散る争奪戦の渦中にいる。
スペインメディア『AS』によると、リバプールやマンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッドという因縁のライバル2クラブに加え、レアル・マドリードまでも若きイングランド代表の守備的ミッドフィルダーに熱視線を送っているようだ。
パレス首脳陣の態度は断固たるもの。8000万ユーロという強気な評価額を掲げ、それ未満のオファーには一切耳を貸さないという冷徹な交渉姿勢を貫いている。エゼを失った中盤において、ウォートンまで失うわけにはいかない。
8000万ユーロ価格設定の妥当性
ウォートンの8000万ユーロ価格設定は一見法外に思えるが、データが物語る真実は全く異なる。『FBref』が叩き出した統計は、この21歳の中盤アーティストがヨーロッパ5大リーグでいかに抜きん出た存在かを証明している。
90分あたりのインターセプト数1.35は上位18%、プログレッシブパス数7.21に至っては上位9%という驚愕の数字だ。これは金に糸目をつけない複数のメガクラブが殺到する理由を雄弁に語っている。
オールド・トラッフォードが最も血気盛んな姿勢を見せている。ルベン・アモリム監督は中盤の核としてウォートンを強く望んでおり、8000万ユーロという価格タグに怯む気配は皆無。対するエティハドは、ロドリの王座継承者として冷静に品定めを続けている。両マンチェスター勢の本気度合いは、この天文学的数字に動じない胆力からも推し量れる。
元スリーライオンズ指揮官サウスゲートは、ウォートンを「動じない」逸材と太鼓判を押した。エゼに至っては「一緒にプレーするのが楽しみな選手」と手放しで賞賛している。数字の羅列ではない、人間性まで含めた完成度の高さが各クラブの欲望を刺激し続けている。
リバプールの中盤戦略
アルネ・スロットの魔術でプレミア制覇を成し遂げたリバプールは、ライアン・フラーフェンベルフとアレクシス・マック・アリスターという黄金コンビを軸に回っている。
この夏はフロリアン・ヴィルツという英国史上最高額の逸材とジェレミー・フリンポンを獲得し、攻守両面で大幅なパワーアップを果たした。それでも連覇とビッグイヤー奪還という二兎を追うには、さらなる戦力の厚みが不可欠だ。
ウォートンの戦術的DNA分析は興味深い結果を示している。敵の攻撃を切り裂くインターセプト技術と、味方の攻撃を加速させるパス能力の共存。これこそスロットが描く理想的中盤像の完璧な体現者だ。彼の加入は単なる戦力補強の域を超え、戦術的完成度を次のレベルへ押し上げる触媒となる可能性を秘めている。
しかし現実は残酷だ。既に2億ユーロ近くを投じた今夏の移籍戦略において、さらに8000万ユーロの追加投資は財政的に極めて困難な判断となる。アレクサンデル・イサクや同じくパレスのマルク・グエイ獲得にも動く中、ウォートンへの資金捻出は至難の業。
個人的な見解
ウォートンの8000万ユーロ評価は決して高すぎることはない。21歳でこれだけの数値を叩き出し、プレミアリーグの激流に揉まれながらも一度もひるんだことのない精神力。
この逸材に投資しないクラブこそ、将来を見据える能力に疑問符が付くだろう。守備的意識とクリエイティブ性の両立は現代サッカーにおいて最も希少な才能であり、どのクラブが手にしても即座にチームの背骨となる存在だ。
しかし、リバプールファンとしては複雑な心境だ。これまで大型補強を敢行しており、来夏の移籍市場で、より計画的にアプローチすべき案件だろう。
最も危惧しているのは、マンチェスター勢に先手を打たれること。特にユナイテッドの積極性は脅威的で、彼らが本気で動けばウォートン獲得は十分に実現可能な範囲にある。
リバプールは今夏見送ったとしても、水面下での関係構築だけは怠ってはならない。パレスとの良好な関係維持、選手サイドへの継続的なアプローチ、これらを疎かにすれば来夏には手遅れとなる可能性が高い。
ウォートンという宝石を他クラブに奪われることは、単なる補強失敗を超えた戦略的敗北を意味するからだ。