アルゼンチンの魔術師エミリアーノ・ブエンディアが再び移籍市場の渦中に立っている。シュトゥットガルトからローン+買取オプション付きの提案を受けたアストンビラが、この申し出を門前払いしたのだ。
英『The Athletic』が伝えたところによれば、ブエンディア自身もビラパーク残留を強く希望している。この一件が露呈したのは、選手の去就を巡る攻防戦が、現代サッカー界の複雑な力学を映し出す鏡となっている現実である。
ブエンディアの市場価値を再評価する時が来た
昨シーズン後半、バイエル・レバークーゼンでのレンタル期間中、ブエンディアの出場機会は想像以上に限られていた。フロリアン・ヴィルツの負傷で創造性あふれるプレーメーカーが切望されていたにも関わらず、大半の試合でベンチを温める結果に終わった。28歳のアルゼンチン代表にとって、これほど屈辱的な経験はなかっただろう。
しかし、ノリッジ・シティ時代に披露した圧倒的なクリエイティビティは色褪せていない。2020-21シーズンのチャンピオンシップでは16ゴール17アシストという驚愕の数字を叩き出し、プレミアリーグ昇格の原動力となった事実を軽んじてはならない。
左足から放たれる針の穴を通すようなパスワークと、電話ボックスほどの狭いスペースでも魅せる華麗なボールコントロールは、現在のアストンビラにとって宝の山となる可能性を秘めている。
ウナイ・エメリ監督の戦術システムにおいて、ブエンディアのような技術の申し子の存在は金に換えられない価値を持つ。チャンピオンズリーグ出場権を手にしたクラブが、虎の子の戦力を安売りするはずがないのは火を見るより明らか。
シュトゥットガルトの補強戦略に潜む課題と展望
一方、シュトゥットガルトの動向も手に汗握る展開を見せている。エンツォ・ミヨのサウジアラビア電撃移籍により、チームの創造性を一手に担っていた心臓部を失ったシュヴァーベン勢は、その巨大な空洞を埋めるのに四苦八苦している。
アーセナルのファビオ・ビエイラ獲得交渉では法外な移籍金が立ちはだかり、PAOKのヤニス・コンスタンテリアスとの契約も、選手の土壇場での新契約締結により暗礁に乗り上げた。
こうした背景を踏まえれば、ブエンディアへのアプローチは理にかなっているが、ローン+買取オプションという腰の引けた提案では、アストンビラの心を動かすには力不足だった。
シュトゥットガルトは既にヴォルフスブルクからティアゴ・トマスの里帰りを成功させ、バルセロナからノア・ダルヴィッチも引き抜いている。攻撃陣の人材は豊富になったものの、ミヨが備えていたようなゲームを支配する司令塔としての決定力は依然として不在のままだ。
セバスティアン・ヘーネス監督が追求するポゼッションベースのサッカーにおいて、最後の一手となるパスの精度とクリエイティビティは生命線そのものである。ブンデスリーガという戦場で勝ち抜くためには、より確実性の高い一手を打つ必要に迫られている。
個人的な見解
かつてのように札束で頬を叩くような時代は完全に終焉を迎え、クラブの戦略性と選手自身の意向がより決定的な要素となっている現実がここにある。
ブエンディアがアストンビラ残留を選んだ背景には、金銭的条件を遥かに超えた深い動機が横たわっているはず。
チャンピオンズリーグという夢の舞台でプレーする千載一遇のチャンス、エメリ監督の緻密な戦術への順応可能性、そしてプレミアリーグという世界最高峰のリーグでの名誉挽回への燃えるような意欲。これらの要素が複雑に絡み合った結果が、今回の残留決断に結実したと読み取れる。
反面、シュトゥットガルトの補強戦略には疑念を抱かざるを得ない。ミヨクラスの逸材を失った痛手を補うには、もっと大胆な投資に踏み切る度胸が求められるのではないか。
ブンデスリーガでの生存競争が激化する中、中途半端な補強では到底太刀打ちできないのが冷酷な現実だろう。今後の移籍市場での手腕が、同クラブの来季の命運を握る鍵となることは疑いようがない。