バーミンガムの夜空に、また新たな星が輝こうとしている。ルーカス・パケタ--この28歳のブラジル人魔術師の名前が、ヴィラ・パークの回廊に響き渡る日は、果たして訪れるのだろうか。
英『BBC Sport』の報道によると、アストン・ヴィラはウェストハムとの間で、ローン料を含む総額約5000万ポンドでの獲得交渉を開始した。この金額は、ヴィラの歴代最高移籍金を大幅に更新する規模となる。
パケタという選手を語る際、多くの人間が忘れがちなのは、彼の多面性である。攻撃的ミッドフィールダーという肩書きに収まりきらない、その戦術的柔軟性こそが、エメリ監督の目を引いた理由に他ならない。
昨シーズンの数字を紐解くと、パケタは90分あたり1.35回のキーパスを記録し、2.35回のシュート創出アクション、2.51回のタックルを完遂している。これは明らかに、典型的な攻撃的選手の数字ではない。
パケタがもたらす戦術的革命
エメリ監督の戦術体系において、パケタの存在は駒の補強を大きく超えた価値を秘めている。ヴィラの現在のシステムを見れば、中盤の創造性不足は明白。ヴィラは新シーズン開幕から2試合を終えて、まだ一度もゴールを奪えずにいる。この深刻な得点力不足は、攻撃陣の個人技だけでは到底解決できない根深い課題だ。
パケタの真価は、彼がピッチ上で演じる役割の幅広さにある。リヨン時代から培われた技術的な基盤に、プレミアリーグでの3年間が加えた戦術的理解。そして何より、プレッシング耐性の高さは、エメリ監督が好む高強度の戦術において、まさに理想的な特性。
エメリ監督の戦術では、攻撃的ミッドフィールダーにも守備的な貢献が強く求められる。パケタのタックル成功率や、ボール奪取後の素早い攻撃転換能力は、まさにこの要求に応える資質と言える。
移籍金5000万ポンドの妥当性を検証する
ウェストハムが設定した6000万ポンドという価格設定に対し、ヴィラは5000万ポンドでのローン+買取義務付きでの獲得を模索している。この1000万ポンドの差額は、決して些細なものではない。しかし、パケタの市場価値を冷静に分析すれば、ヴィラの提示額には十分な合理性がある。
まず、パケタの年齢要因を考慮しなければならない。28歳という年齢は、技術的なピークを迎えつつも、転売価値の観点では下降線に入り始める微妙な時期だ。さらに、過去2年間のベッティング疑惑による精神的な影響で、彼のパフォーマンスは明らかに低下していた。この状況を踏まえれば、5000万ポンドという評価は妥当な線引きだ。
一方で、パケタの技術的な能力そのものに疑いの余地はない。リヨン時代の輝きを知る者であれば、彼が適切な環境と戦術的な役割を与えられた時の破壊力を理解している。エメリ監督の下で、再びその才能が開花する可能性は決して低くない。
さらに重要なのは、ヴィラの現在の状況である。チャンピオンズリーグ出場権獲得という目標を考えれば、即戦力の獲得は急務。パケタのような経験豊富な選手が、若手中心のヴィラの中盤に加わることの意義は計り知れない。
ウェストハムの経営陣も、ハマーズニュースの報道によると、トッテナム、ヴィラ、そしてサウジアラビアの2クラブが関心を示していることを認めている。この激しい競合状況が、パケタの市場価値の高さを如実に示している。しかし同時に、ヴィラにとっては交渉を有利に進めるチャンスでもある。
移籍期限まで残された時間が少ない状況下で、各クラブは最終的な決断を迫られている。パケタ本人がヴィラ移籍に前向きな姿勢を示しているという情報は、この複雑な三角関係において、ヴィラにとって最大の武器となり得る。
個人的な見解
長年にわたってプレミアリーグの移籍市場を見続けてきた立場から言えば、このパケタ移籍は、ヴィラにとって非常にハイリスク・ハイリターンな賭けだと感じている。
5000万ポンドという投資額は、クラブの財政状況を考えれば決して軽いものではない。しかし、エメリ監督の戦術的な構想力を信じるなら、この投資は十分にペイする可能性がある。
パケタという選手の魅力は、その予測不可能性にある。彼がピッチに立つ時、常に何かが起こる予感がする。
それが良い方向に転ぶか、悪い方向に転ぶかは時として運次第だが、少なくとも退屈な試合になることはない。ヴィラのサポーターにとって、こうした刺激的な選手の存在は、勝利の喜び以上に記憶に残る瞬間を数多く生み出すだろう。
ただし、移籍が成功するかどうかは、エメリ監督がパケタをどのように活用するかにかかっている。彼の創造性を殺すことなく、チーム戦術に組み込むバランス感覚が求められる。
過去のセビージャやビジャレアルでの手腕を見る限り、エメリ監督にはその能力があると確信している。移籍期限まで残り時間は限られているが、この大胆な賭けが、ヴィラの新たな黄金時代の幕開けとなることを期待している。