アンドレ・オナナの名前が、オールド・トラフォードの未来予想図から急速に薄れつつある。2023年夏、インテル・ミラノから4700万ポンドで迎えられたカメルーン代表GKは、わずか1年でその立場を大きく揺るがされている。
ルベン・アモリム新監督の戦術構想は、彼を中心に据えるものではなくなってきた。そこに浮上したのが、サウジ・プロリーグからの具体的な関心だ。ユナイテッドはサウジへの放出に前向きであると、英『Teamtalk』が伝えた。
オナナは昨季、プレミアリーグでのセーブ率がリーグ平均を下回り、特にクロス対応やハイボール処理での不安定さが目立った。インテル時代に見せた後方からの組み立て能力は健在だが、プレミア特有のフィジカルとスピードに適応しきれず、試合の流れを変えるミスが幾度もあった。
アモリムは就任直後から守備の再構築を掲げ、より安定感と統率力を備えた守護神を求めている。ベルギーの若手GKセネ・ラメンスの獲得は、その意志を明確に示す動きだった。
ラメンスは足元の技術に加え、空中戦での強さと冷静な判断力を兼ね備え、アモリムの戦術にフィットする可能性が高い。オナナにとっては、ポジション争いが競争の域を超え、構想外の危機を意味している。
オナナの評価とプレースタイルの変遷
オナナはアヤックス時代から、ビルドアップの起点として評価されてきた。相手のプレスをいなす足元の技術、正確なロングフィード、そしてペナルティエリア外まで飛び出す積極性は、現代型GKの象徴とも言える存在だった。
しかし、プレミアリーグではその積極性が裏目に出る場面が増えた。特にハイライン戦術を敷くユナイテッドでは、背後のスペースを突かれるリスクが高まり、判断の遅れやポジショニングのズレが失点に直結した。
データ面では、2024-25シーズン前半戦で被シュートに対するセーブ率が65％台にとどまり、リーグ上位クラブの守護神としては物足りない数字となった。さらに、セットプレーからの失点率も高く、守備組織全体の安定感を欠く要因となっていた。こうした数字は、アモリムが新たな守護神を探す理由を裏付けている。
オナナの強みは、後方からの組み立てで数的優位を作り出す能力にある。インテル時代には、相手の前線プレスを無力化し、中盤の選手に時間とスペースを与えるパスを供給していた。
ただし、プレミアの激しいプレッシャーと空中戦の多さは、彼の長所を発揮する前に弱点を突く展開を生みやすかった。結果として、守備全体の安定感を欠く試合が増え、信頼を失う要因となった。
サウジ・プロリーグ移籍の現実味とユナイテッドの戦略
サウジ・プロリーグは近年、欧州のスター選手を次々と獲得し、リーグの競争力と注目度を急速に高めている。オナナに対しても複数クラブが関心を示しており、その中にはアジアチャンピオンズリーグ出場を狙う強豪も含まれる。
提示される条件は、年俸面でユナイテッド時代を大きく上回る可能性が高く、経済的な魅力は計り知れない。
また、サウジ移籍はプレッシャーの質を変える選択でもある。欧州トップリーグの熾烈な競争から離れ、異なる戦術文化や気候条件の中でプレーすることは、選手としての新たな成長機会にもなり得る。オナナにとっては、キャリアの再構築と経済的安定を同時に手に入れる道だ。
アモリムはスポルティングCP時代から、守備と攻撃のバランスを重視する戦術家として知られている。3バックとウイングバックを活用し、GKにはビルドアップだけでなく、守備ラインの統率やカバーリング能力を求める。オナナの足元の技術は評価されつつも、空中戦や1対1の局面での安定感不足が、アモリムの理想像とは一致しなかった。
ラメンスの加入は、バックアップではなく戦術刷新の象徴と言える。若くして高い完成度を誇る彼は、アモリムの哲学を体現できる存在として期待されている。ユナイテッドは守備の再構築を急ぎ、同時に財務面でも健全化を進める必要がある。オナナの移籍は、その両方を実現する手段となり得る。
2025年1月の移籍市場は、オナナにとってキャリアの分岐点となる可能性が高い。ユナイテッドは移籍金を確保しつつ、年俸負担を軽減できるため、交渉に前向きだ。サウジ側も、欧州での実績と国際経験を持つ守護神を迎えることで、リーグ全体の競争力を引き上げたい考えを持っている。
個人的な見解
オナナのケースは、現代サッカーにおけるGKの評価基準の変化を鮮明に映し出している。足元の技術やビルドアップ能力が重視される一方で、最終的にはゴールを守るという原点的な役割が揺るぎない価値を持つ。
アモリムの戦術は、GKに対してより包括的な能力を求めるものであり、その要求に応えられなければ、高額で獲得された選手であっても構想外となる。
個人的には、オナナがサウジへ移籍する可能性は高いと見ている。経済的条件だけでなく、プレッシャーの質や環境の変化が、彼のパフォーマンスを再び引き上げる契機になるかもしれない。