トルコの移籍市場は閉幕まで残りわずか6日。そんな中、ベシクタシュがアーセナルのベルギー代表FWレアンドロ・トロサールに対し、移籍金2200万ユーロの正式オファーを提示したと地元紙が報じた。
30歳のトロサールは2023年1月にブライトンから加入し、公式戦125試合で28ゴール23アシストを記録。負傷離脱がほぼ皆無という稀有な安定感を誇り、2シーズン連続で二桁得点を達成している。
今夏のアーセナルは攻撃陣を刷新。ヴィクトル・ギェケレシュ、ノニ・マドゥエケ、エベレチ・エゼを獲得し、さらに15歳の新星マックス・ダウマンも台頭した。開幕3試合でトロサールは第2節リーズ戦で途中出場したのみで、第1節と第3節はベンチ入りにとどまっている。
出場機会が減る可能性は高いが、それでもクラブは放出を選ばなかった。ファブリツィオ・ロマーノ氏は、トルコ移籍の噂が飛び交う中、アーセナルにベルギー代表のアタッカーを放出つもりはないと断言した。
🚨🔴⚪️ Arsenal are not planning for Leandro Trossard exit despite links with Besiktas move in the recent days.
— Fabrizio Romano (@FabrizioRomano) September 6, 2025
Trossard already agreed new deal at the club in August and move to Turkish Super Lig has no chance of happening now. pic.twitter.com/i06hDRaVtS
現行契約は2026年6月まで残っており、8月には給与条件の見直しを含む新契約に合意。本人もロンドンでのキャリア継続を希望していると見られ、ベシクタシュのオファーは市場価値に見合う額だったが、アーセナルは即座に拒否の姿勢を固めた。
トロサールの戦術的価値と今季の役割
トロサールの最大の強みは、ポジション適応力と試合状況に応じたプレー選択の幅広さだ。左ウイングを主戦場としながら、センターフォワード、トップ下、右サイドでも機能する。アルテタ監督の下では、ポゼッション時に内側へ絞って中盤の数的優位を作り出し、相手守備ライン間でボールを受ける動きが顕著だ。これにより、攻撃の組み立てに厚みを加え、フィニッシュワークにも絡む。
昨季のデータでは、90分あたりのキーパス数は2.1本、シュート関与回数は5.8回と、攻撃の起点として高い水準を維持。守備面でも前線からのプレス成功率がリーグ平均を上回り、攻守両面での貢献度が数字に裏付けられている。特に、相手が疲弊する終盤に投入された際のインパクトは大きく、テンポを一気に引き上げる能力は他のアタッカーにはない。
今季は新戦力との競争が激化する中、トロサールは“スーパーサブ”としての役割を担う可能性が高い。第2節リーズ戦では後半途中から投入され、攻撃のリズムを変えるプレーを連発。アルテタ監督にとって、試合終盤に相手守備を崩すための切り札としての価値は計り知れない。
さらに、チャンピオンズリーグとプレミアリーグを並行して戦う今季は、ローテーションの質を落とさないためにも、経験豊富で戦術理解度の高い選手の存在が不可欠。トロサールはその条件を満たす数少ない選手であり、ベンチに控えているだけでも相手にとっては脅威となる。
ベシクタシュ移籍が成立しない背景
ベシクタシュはトルコリーグでの優勝争いと欧州カップ戦での躍進を狙い、即戦力のアタッカーを求めている。トロサールのプレースタイルは同クラブの攻撃的志向に合致しており、2200万ユーロというオファー額は決して低くない。しかし、アーセナルが応じない背景には、短期的な資金よりもシーズン全体を見据えた戦力構築の優先がある。
第一に、トロサールはプレミアリーグの強度に完全に適応しており、シーズン中盤以降に訪れる過密日程での戦力ロスを防ぐ保険となる。
第二に、契約期間が残っているため、来夏の移籍市場でより高額のオファーを引き出せる可能性がある。
第三に、アルテタ監督が求める戦術的多様性を担保する選手は限られており、現時点で代替可能な人材はチーム内に存在しない。
トルコの移籍市場は9月12日に閉幕するため、残り数日で状況が急転する可能性はゼロではない。しかし、現状ではアーセナルが放出に踏み切る兆しはなく、トロサールは今季もロンドンで戦い続ける見通しが強い。
個人的な見解
今回のケースは、アーセナルが短期的な利益よりも長期的な競争力維持を優先した好例だと感じる。
2200万ユーロというオファーは魅力的だが、それ以上にトロサールがもたらす戦術的柔軟性と経験値は、シーズンを通しての安定感に直結する。
特に、プレミアリーグとチャンピオンズリーグを並行して戦う今季、ローテーションの質を落とさないためには、こうした万能型アタッカーの存在が不可欠となる。
また、トロサール自身が新契約に合意し、クラブへの忠誠心を示している点も重要だ。移籍市場の噂に左右されず、自らの役割を全うしようとする姿勢は、若手選手たちにとっても良い手本となる。
今季、彼が途中出場から決定的な仕事をする場面は必ず訪れるはずだ。その瞬間こそ、今回の残留決断が正しかったことを証明する舞台になると確信している。