プレミアリーグの移籍市場は一旦幕を閉じたが、アストン・ヴィラのモーガン・ロジャーズを巡る物語は終わっていない。今夏、トッテナム・ホットスパーとチェルシーが揃って獲得を試みたが、ヴィラは1億ポンドという高額な評価額を提示し、交渉の芽を摘んだ。それでも両クラブの関心は冷めず、2026年に向けた再アプローチが既に水面下で進んでいる。
ロジャーズは昨季、プレミアリーグで8ゴール10アシストを記録し、PFA年間最優秀若手選手に輝いた23歳の攻撃的MFだ。右ウイング、左ウイング、トップ下を自在にこなし、ウナイ・エメリの戦術において攻撃の起点とフィニッシュの両方を担う存在となっている。
今季は開幕3試合でわずか1ポイントと苦戦するチームの中でも、彼の存在感は際立っており、代表活動でもイングランド代表に招集されている。
トッテナムは夏の移籍市場でジェームズ・マディソンの負傷離脱を受け、創造性と得点力を兼ね備えた選手を探していた。最終的にはRBライプツィヒからシャビ・シモンズを獲得したが、ロジャーズは最後まで候補リストの上位に残っていた。
一方、チェルシーはリクルート部門トップのジョー・シールズがマンチェスター・シティ時代からロジャーズを高く評価しており、同僚で親友のコール・パーマーとの再共演を実現させたい意向を持っている。
モーガン・ロジャーズの戦術的価値と市場評価
ロジャーズのプレースタイルは、単なるウイングやトップ下の枠に収まらない。サイドで相手SBを引き出し、内側へのドリブルで中央のスペースを創出する動きは、エメリのポゼッション志向とカウンター戦術の両方に適合する。昨季のデータでは、90分あたりのキーパス数が2.1本、ドリブル成功率は58%と、創造性と突破力を高い水準で両立している。
さらに、ペナルティエリア外からのミドルシュートや、相手最終ラインの背後を突くスルーパスの精度も高い。ヴィラの攻撃における得点期待値(xG)は、ロジャーズが出場しない試合で平均0.4ポイント低下しており、その影響力は数字にも表れている。こうした背景から、ヴィラが提示する1億ポンドという評価額は、いわゆる牽制ではなく、彼の戦術的価値を正確に反映したものだ。
ロンドン2強の思惑と2026年の移籍市場
トッテナムはレヴィ会長退任後、財務戦略の柔軟化が進み、これまで抑制的だった大型投資にも踏み切る可能性が高まっている。トーマス・フランク監督は、マディソンとロジャーズを併用することで、攻撃の多様性と創造性を飛躍的に高められると考えている。
一方、チェルシーはエンツォ・マレスカ監督の下で、若手主体の攻撃的サッカーを志向しており、ロジャーズはその中核を担える人材と見なされている。特に、パーマーとのコンビ再結成は、戦術面だけでなくクラブのマーケティング戦略にも寄与する可能性がある。
ヴィラは今夏、ロジャーズを含む主力の流出を阻止するために積極的な姿勢を見せた。エメリは彼を攻撃の中心に据え、自由にプレーさせることで最大限のパフォーマンスを引き出している。ロジャース自身も、エメリからの信頼と愛情が「すべての原動力になっている」と語っており、現時点で移籍を強く望んでいる様子はない。
しかし、現代サッカーにおいて1億ポンド規模のオファーは無視できない力を持つ。ヴィラが来夏も同じ評価額を維持できるかは、今季の成績や財務状況次第。特に、欧州カップ戦出場権を逃した場合、クラブの収益構造に影響が及び、移籍交渉のテーブルに着く可能性が高まる。
個人的な見解
ロジャーズの去就は、ただ単な移籍話ではなく、プレミアリーグの勢力図を左右する可能性を秘めている。
トッテナムが彼を獲得すれば、マディソンとのダブル司令塔体制が完成し、攻撃の厚みは一気に増す。
チェルシーが手に入れれば、パーマーとの再タッグが攻撃の化学反応を生み、マレスカの戦術を一段引き上げるだろう。
一方で、ヴィラが彼を引き留め続ければ、クラブは中長期的に欧州カップ戦常連の地位を固められる。ロジャーズはまだ23歳、成長曲線の頂点はこれからだ。
来夏、どのクラブがこの逸材を手にするのか、その瞬間はプレミアリーグの歴史に刻まれる一幕になると確信している。