リバプールのディフェンダー、ジョー・ゴメスは、この夏の移籍市場でACミラン移籍が目前まで迫っていた。契約条件はほぼ合意に達し、移籍金は1500万ユーロ。
10年にわたりアンフィールドで数々のタイトルを勝ち取ってきた男が、新たな挑戦のためにイタリアへ渡る寸前だった。しかし、移籍市場最終日の夕刻、すべてが急転した。
リバプールが今夏の最重要補強ターゲットとしていたマルク・グエヒの獲得が、クリスタル・パレスの土壇場での撤回によって頓挫した。グエヒはメディカルチェックまで進んでいたが、パレスは主将の放出を思いとどまり、交渉を打ち切った。これにより、ゴメス放出の条件が崩れ、ACミランへの扉は閉ざされた。
最終日に交錯した複数クラブの思惑
この移籍劇は、一対一の交渉ではなかった。ACミランは3バックの中央を任せられる経験豊富な守備者を求め、ゴメスを理想的な補強と見なしていた。
一方、ブライトンやクリスタル・パレスも、最終日に彼の獲得を模索していたと、英『Football Insider』が報じた。特にパレスは、グエヒ放出に備えた代替案としてゴメスをリストアップしていたが、グエヒ残留が決まった時点でその必要性は消えた。
リバプール側も、ゴメスを手放すには条件があった。アルネ・スロット監督は、シーズンを戦い抜くために4人のトップレベルCBを確保する方針を持っており、グエヒ獲得が成立しない限り、ゴメス放出はリスクが高すぎた。この判断が、最終的に彼をアンフィールドに留める結果を生んだ。
28歳のゴメスは、センターバックと右サイドバックの両方をこなせるユーティリティ性を持ち、守備の安定感とビルドアップの起点としての役割を担える。過去数年は負傷離脱が多く、スロット政権下では出場機会が限られていたが、直近のアーセナル戦では負傷したイブラヒマ・コナテに代わって途中出場し、わずか11分間で7回のクリアと3度の空中戦勝利を記録するなど、存在感を示した。
今季のリバプールは、ヴィルツやイサクといった大型補強で攻撃陣を刷新した一方、守備陣の再構築は未完のままだ。フィルジル・ファン・ダイクとコナテがファーストチョイスであることに変わりはないが、コナテの負傷歴や18歳の新加入ジョヴァンニ・レオーニの経験不足を考えれば、ゴメスの残留は戦術的にも心理的にも貴重な戦力となる。
1月に訪れる可能性のある分岐点
もっとも、この残留は永続的なものではない。ジャーナリストのデイヴィッド・リンチ氏によれば、リバプールは1月にもグエヒ獲得を再試みる可能性が高く、その場合はゴメス放出が現実味を帯びる。ACミランは依然として彼を高く評価しており、冬の市場で再び交渉のテーブルにつく可能性がある。
ミランは昨季の不安定な守備を立て直すため、中央で統率力を発揮できる選手を求めている。ゴメスはその条件に合致し、プレミアリーグで培った対人能力とカバーリングの質は、セリエAでも通用するだろう。リバプールにとっても、適切な補強が整えば彼を手放すことで財務面の柔軟性を確保できる。
ゴメスは派手なプレーで脚光を浴びるタイプではないが、彼の存在はチーム全体の安定感に直結する。特に、試合終盤のリードを守る局面や、主力が負傷した際の穴埋めとしての信頼度は高い。スロット監督が求める「攻守の切り替えの速さ」を実現する上でも、彼のポジショニングと判断力は欠かせない要素だ。
また、彼はクラブ内での人望も厚く、若手への助言や練習での姿勢が評価されている。こうした影響力は、数字には表れにくいが、長いシーズンを戦う上で確実にチームの結束を高める。
もし1月にグエヒが加入すれば、リバプールはファン・ダイク、コナテ、グエヒ、レオーニという4枚のセンターバック体制を確立できる。その場合、ゴメスは新天地での挑戦を選ぶ可能性が高い。逆に、グエヒ獲得が再び失敗すれば、彼はシーズン終了までアンフィールドで重要な役割を担い続けるだろう。
個人的な見解
今回の移籍未遂は、リバプールの補強戦略がいかに複雑な条件の上に成り立っているかを示している。
ゴメスは今季、出場機会が限られる可能性が高いが、それでも残留が選ばれたのは、彼が持つ戦術的価値と経験が、数字以上にチームに影響を与えるからだ。
個人的には、ゴメスは今季のリバプールにおいて「静かなるキーマン」になると考えている。彼がピッチに立つ時間は短くても、その間に見せる守備の安定感とリーダーシップは、勝ち点を積み上げる上で欠かせない。
1月に再び移籍話が浮上する可能性は高いが、その時までに彼がどれだけの試合で価値を証明できるかが、次のキャリアの行方を大きく左右するはず。