エヴァートンの左サイドバック争いが、2025年に大きな転換期を迎えている。バイエルン・ミュンヘンから加入した19歳のモロッコ代表アダム・アズヌが、クラブの未来像を塗り替えつつある。
バルセロナのラ・マシアで育ち、昨季はレアル・バリャドリードで13試合に出場して経験を積んだこの若き才能は、マージーサイドでの新たな挑戦に胸を躍らせている。
一方で、ウクライナ代表ヴィタリ・ミコレンコの立場は微妙だ。2025/26シーズン終了時に契約が切れる彼は、来年1月から他クラブと自由に交渉できる立場になる。クラブとしては、プレミアリーグでの経験豊富な戦力を失うリスクを避けたいが、アズヌの台頭がその判断を難しくしている。
アズヌ加入がもたらす戦術的再編
アズヌは、守備面での堅実さよりも、攻撃参加の積極性と縦への推進力で評価されるタイプ。左サイドからのオーバーラップ、内側へのカットイン、そして高精度のクロス。これらは、デイヴィッド・モイーズ監督が求める「攻撃の起点となるサイドバック像」に直結している。
バイエルン時代にはブンデスリーガとチャンピオンズリーグで数試合の出場経験を持ち、若さに似合わぬ落ち着きと判断力を見せた。さらに、モロッコ代表としてもすでに3キャップを記録しており、国際舞台での経験も積んでいる。
エヴァートンは今夏、カルロス・アルカラス、ティエルノ・バリー、マーク・トラヴァースといった即戦力を補強したが、アズヌはその中でも将来性と即効性を兼ね備えた存在として期待されている。
ミコレンコは2022年の加入以来、守備面での安定感と対人の強さで評価されてきた。特に降格争いの中で見せた粘り強い守備は、クラブにとって欠かせないものだった。しかし、今季は負傷離脱やコンディション不良が重なり、開幕からの数試合で存在感を示しきれていない。
契約延長の交渉は進展しておらず、クラブはアズヌの成長次第で放出も視野に入れているとされる。ただし、モイーズ監督はミコレンコを完全に構想外とするわけではなく、ウイング不足の現状を踏まえて、より高い位置での起用も検討しているという。実際、昨季終盤には攻撃参加を増やし、クロスやカットインでチャンスを作る場面も見られた。
もしミコレンコが攻撃的ポジションで新たな役割を確立できれば、アズヌとの共存も可能になる。しかし、それは短期間での適応力と結果が求められる厳しい挑戦となる。
クラブ経営とPSRの影響
エヴァートンはプレミアリーグの利益・持続可能性規則(PSR)に敏感にならざるを得ない状況にある。価値ある選手をフリーで失うことは、財務的にも戦力的にも大きな損失だ。ミコレンコは市場価値が高く、契約延長か売却かの二択を迫られている。
アズヌの加入は、ポジション争い以上に、クラブの財務戦略やチーム編成の方向性を映し出している。若く、成長余地の大きい選手を獲得し、既存戦力の整理を進める。この流れは、エヴァートンが中長期的な再建を目指す上で避けられないプロセスだ。
地元メディアやファンの間では、アズヌのプレーに対する期待が高まっている。特にプレシーズンで見せたスピードとテクニックは、グディソン・パークの観客を沸かせた。一方で、ミコレンコの残留を望む声も根強く、彼の経験と守備力を評価する意見は少なくない。
SNS上では「アズヌとミコレンコの併用こそ最適解」という意見もあれば、「今こそ若返りを進めるべき」という声もあり、議論は分かれている。
個人的な見解
今回のアズヌ加入は、エヴァートンにとって戦術面と経営面の両方で大きな意味を持つ動きだと感じる。
左サイドバックというポジションは、現代サッカーにおいて攻撃と守備の両面で重要性が増しており、そこに若くダイナミックな選手を据えることは、チーム全体の戦い方を変える可能性がある。
ミコレンコは依然としてプレミアリーグで通用する守備力を持っているが、クラブが求めるのは「現状維持」ではなく「進化」だ。
アズヌがその役割を担えるかどうかは、今後数カ月のパフォーマンス次第だろう。もし彼が期待通りの成長を遂げれば、エヴァートンは左サイドに新たな武器を手に入れることになる。
逆に、アズヌが適応に苦しむようであれば、ミコレンコの価値は再評価されるはずだ。いずれにせよ、このポジション争いは2025/26シーズンのエヴァートンにおける最大の注目ポイントのひとつであり、クラブの未来を占う試金石になると考えている。