ユベントスの新戦力エドン・ジェグロヴァは、セリエAの舞台で少しずつ自らの存在を示し始めている。リールからの移籍は “バーゲンディール” と評され、リヴァプールやレアル・マドリードといった欧州の巨人たちが一度は関心を寄せながらも最終的に手を引いた選手を、ユベントスが掴み取った格好であると、イタリアメディア『Tuttosport』が伝えた。
この移籍の背景には、ユベントスがニコ・ゴンサレスをアトレティコ・マドリードへ放出したことがある。攻撃陣の再編を迫られたクラブは、即戦力かつ将来性を兼ね備えたウインガーを求めていた。
ジェグロヴァはその条件に合致していたが、彼のキャリアには大きな懸念がつきまとっていた。鼠径部の負傷により、2024年シーズンは250日以上を欠場。選手としての評価は一時的に下降し、リヴァプールやレアルが最終的に見送った最大の理由となった。
しかし、ユベントスはそのリスクを受け入れた。移籍金を抑えながらも、潜在能力の高さに賭けたのだ。クラブは2030年までの長期契約を結び、背番号11を託した。これは単なる補強ではなく、クラブの未来を託す意思表示でもあった。
ジェグロヴァのプレースタイルとユベントスでの役割
ジェグロヴァは左利きの右ウイングで、最大の武器はドリブル突破だ。狭いスペースでも一瞬の加速で相手を置き去りにし、カットインからのシュートや決定的なラストパスで違いを生み出す。リール時代には通算107試合26ゴール18アシストを記録し、数字以上に攻撃の推進力として存在感を放っていた。
ユベントスにおいては、フランシスコ・コンセイソンやケナン・ユルディズとのポジション争いが待ち受ける。だが、イゴール・トゥドール監督の戦術において、サイドからの仕掛けは不可欠な要素であり、ジェグロヴァの特性はチームに新たな選択肢を与えるはず。特にカウンター局面での推進力は、セリエAの堅守を打ち破る武器となるだろう。
さらに、ジェグロヴァの特徴ドリブラーにとどまらない。彼は守備面でも献身的に走り、相手のビルドアップを阻害する役割を担える。ユベントスが近年課題としてきた“攻守の切り替えの遅さ”を改善するピースとなる可能性がある。実際、今季序盤の数試合では途中出場ながらも高いプレス強度を見せ、サポーターからも評価を得ている。
リヴァプールは今夏、アレクサンデル・イサクとフロリアン・ヴィルツという超大物を獲得し、攻撃陣の刷新に成功。特にヴィルツの加入は、モハメド・サラーの後継者探しを意識した“未来への布石”と受け止められている。
その一方で、ジェグロヴァはサラーの控え候補として検討されたが、フィジカル面の不安がネックとなり、最終的にリストから外れた。
一方のレアル・マドリードも、右ウイングの補強候補としてジェグロヴァを検討していた。しかし、彼らが最終的に選んだのはリーベル・プレートから加入したアルゼンチンの新星、フランコ・マスタントゥオーノだった。18歳の逸材はすでにシャビ・アロンソの下でスタメンに定着し、クラブの未来を担う存在となっている。結果的に、ジェグロヴァは両クラブにとって“遠い選択肢”に過ぎなかった。
ユベントスでの未来と課題
ジェグロヴァにとって最大の課題は、やはりフィジカルの維持だ。過去の負傷歴を考えれば、シーズンを通して安定したパフォーマンスを発揮できるかどうかが鍵となる。ユベントスのメディカルスタッフは徹底したコンディション管理を行っており、クラブとしても彼を長期的に戦力化するための準備を整えている。
また、戦術面での適応も重要だ。セリエAは守備組織が緻密であり、単純なスピードやドリブルだけでは通用しない。ジェグロヴァが真に評価されるためには、相手の守備を崩すための判断力や連携面での成長が不可欠だ。特にユルディズやヴラホヴィッチとのコンビネーションを深めることが、彼の成功を左右するだろう。
個人的な見解
ジェグロヴァのユベントス移籍は、クラブの補強戦略における“リスクとリターン”の象徴だと感じている。確かに彼の負傷歴は無視できない。
しかし、移籍金を抑えつつ、潜在能力の高いウインガーを獲得できた点は評価すべきだ。
特に、リール時代に見せたドリブル突破力とゴール前での冷静さは、ユベントスの攻撃に新たな彩りを加える可能性を秘めている。
一方で、リヴァプールやレアル・マドリードが見送った背景には、クラブの規模や戦力状況に応じた合理的な判断がある。
リヴァプールはすでにイサクとヴィルツという“即戦力かつ未来の軸”を確保し、レアルはマスタントゥオーノという若き才能に投資した。つまり、ジェグロヴァは“トップ・オブ・トップ”の選択肢ではなかったのだ。
それでも、サッカーの歴史は“見送られた選手”が大舞台で輝く瞬間に満ちている。
ジェグロヴァがその系譜に名を連ねるかどうかは、彼自身のフィジカル管理とメンタルの強さにかかっている。
ユベントスでの挑戦は、彼にとってキャリアの正念場であり、同時にクラブにとっても大きな賭けだ。私は、この移籍が数年後に“最高の掘り出し物”と語られる可能性を強く感じている。
