ャロッド・ボーウェンの表情が、すべてを物語っていた。9月21日、ロンドン・スタジアムで行われたクリスタル・パレス戦。彼が決めた同点ゴールは、歓喜よりも焦燥に満ちていた。結局チームは逆転負けを喫し、今季のホーム戦績は1勝2敗。スタンドにはブーイングが響き、グレアム・ポッター監督の進退問題が現実味を帯びてきた。
ウェストハム・ユナイテッドはプレミアリーグで19位。開幕から5試合で勝ち点3という低調なスタートは、クラブの屋台骨を揺るがしている。特に、攻撃の中心であるボーウェンの去就が不透明になりつつあることは、クラブにとって致命的なリスクだ。
ジャロッド・ボーウェンの忠誠と限界の狭間で
ボーウェンは、ウェストハムの象徴だ。2019年にハル・シティから加入して以来、彼はクラブの攻撃を牽引し続けてきた。昨季はプレミアリーグで13得点を記録し、今季もすでに2ゴールを挙げている。彼のプレースタイルは、縦への推進力とゴール前での冷静さが融合したもの。右サイドからのカットイン、裏への抜け出し、そしてセットプレーでの嗅覚──どれもがウェストハムにとって不可欠な武器だ。
しかし、今季のチーム状況は、彼の忠誠心を試すものとなっている。クラブ内部ではボーウェンのモチベーション維持が最重要課題とされており、共同会長のデイヴィッド・サリヴァンは「彼を失えば、プロジェクトそのものが崩壊する」と語っているという。
実際、ボーウェンはクラブに対して強い愛着を持っている。2023年には2030年までの長期契約を結び、移籍の噂を一蹴した。しかし、今季のような混乱が続けば、その忠誠心も揺らぎかねない。彼が試合後に語った「戦術がどうであれ、最終的にピッチで決断するのは選手だ」という言葉には、ポッター体制への不信が滲んでいた。
ポッター体制の崩壊とクラブの岐路
グレアム・ポッターは2025年1月に就任して以来、公式戦25試合で14敗という厳しい成績に苦しんでいる。特にセットプレーでの失点が目立ち、トッテナム戦ではトーマス・フランクの代名詞とも言えるスローイン戦術に屈した。守備陣の連携不足、戦術の曖昧さ、選手起用の一貫性のなさ──どれもがチームの不安定さを加速させている。
ポッターの戦術は、理論的には魅力的。ポゼッションを重視し、ビルドアップからの崩しを狙うスタイルは、チェルシー時代にも一部で評価された。しかし、ウェストハムの選手構成とは噛み合っていない。ルーカス・パケタやジェームズ・ウォード＝プラウズのようなテクニカルな選手はいるものの、彼らを最大限に活かす戦術設計ができていない。
クラブ内部ではすでに後任候補としてスラヴェン・ビリッチやヌーノ・エスピリト・サントの名前が挙がっている。特にビリッチは、かつてウェストハムをヨーロッパリーグ出場に導いた経験があり、クラブ文化への理解も深い。彼の復帰は、ボーウェンの残留にも好影響を与える可能性がある。
ボーウェンの未来とクラブの選択
ウェストハムがこの危機を乗り越えるには、ボーウェンの心をつなぎ止めることが絶対条件だ。彼の背中に、クラブの未来が乗っている。そしてその未来は、今まさに試されている。
1月の移籍市場では、新たなアタッカー獲得が計画されている。これは戦力補強以上に「野心の証明」としての意味合いが強い。ボーウェンに「このクラブはまだ上を目指している」と感じさせることが、残留への最大の鍵となる。
また、クラブはボーウェンの負担を軽減する必要がある。現在、彼は攻撃だけでなく守備にも奔走しており、試合終盤には明らかに疲労が見える。彼のパフォーマンスを最大化するには、周囲のサポートが不可欠だ。特に、ルーカス・パケタとの連携を強化することで、ボーウェンの得点機会を増やすことができる。
個人的な見解
ウェストハムが今、最も必要としているのは「方向性」だ。
戦術的な修正や補強も重要だが、それ以上にクラブとしてのビジョンを明確に示すことが求められている。
ボーウェンのような選手は、単に勝利を求めているのではない。彼らはプロジェクトに共感し、未来に希望を持ちたいのだ。
ポッターの解任は時間の問題かもしれない。だが、後任選びを誤れば、クラブはさらに深い混迷に陥る。
個人的には、スラヴェン・ビリッチの復帰は悪くない選択肢だと感じている。
彼はクラブの文化を理解しており、ボーウェンのような選手を中心に据えたチーム作りができるはずだ。
ウェストハムがこの秋を乗り越えられるかどうかは、ボーウェンの心をつなぎ止められるかにかかっている。彼の忠誠心は、クラブの未来を照らす灯火だ。
その灯を消さないために、クラブは今こそ本気を見せるべきだ。