ジョシュア・ザークツィーの名前が、再びイタリアの地で熱を帯びている。マンチェスター・ユナイテッドで出場機会を失い、今季プレミアリーグではわずか74分の出場にとどまる24歳のオランダ人ストライカーに、セリエAの新興勢力コモが熱視線を送っていると、イタリア紙『Corriere Como』が報じた。
ユナイテッド加入から1年。ボローニャでの輝きを引っ提げてやってきたザークツィーは、当初こそルベン・アモリム監督の下でワイドなプレーメイカーとして評価されたが、今季は完全に構想外。
新戦力のベンヤミン・シェシュコがセンターで定着し、マテウス・クーニャやブライアン・ムベウモらがトップ下を争う中、ザークツィーの居場所はない。EFLカップではグリムズビー・タウンに敗れ、欧州大会も不参加のユナイテッドにおいて、彼が出場機会を得る可能性は限りなく低い。
そんな彼に手を差し伸べようとしているのが、セスク・ファブレガス率いるコモ。昨季セリエA昇格を果たしたばかりのクラブながら、豊富な資金力と明確なビジョンを持つコモは、若手有望株を集めて“売るため”ではなく“育てるため”のプロジェクトを進めている。
ザークツィーはその象徴的存在として、ピッチ内外でクラブの成長を牽引する“ドライビングフォース”と見なされている。
ザークツィーのプレースタイルとコモの戦術的親和性
ザークツィーのプレースタイルは、典型的な大型ストライカーとは一線を画す。193cmの長身ながら、彼は最前線に張るタイプではなく、積極的に中盤に降りてゲームメイクに関与する「偽9番」型のフォワードだ。
彼の最大の武器は、ボールキープとリンクアッププレー。敵のプレッシャーを巧みにいなし、ワンタッチ・ツータッチで味方を活かすパスを供給する。視野の広さとテクニックに優れ、ドリブル突破も平均4回以上/90分と積極的。両足を使ったフェイントで相手を欺き、スペースを創出する能力は、セリエAの戦術的な環境において大きな武器となる。
一方で、プレミアリーグのような高強度・高速展開の中では、彼の持ち味が埋もれてしまう傾向がある。空中戦の弱さやシュートのパワー不足も課題であり、フィニッシュ面での存在感は限定的だ。ユナイテッドでは、ゴール前での決定力を求められる役割とのミスマッチが顕著だった。
しかし、ファブレガスが率いるコモは、ポゼッション志向かつ流動的な攻撃を志向するチーム。ザークツィーのような“つなぎ役”が機能する余地は大きく、彼の創造性とテクニックは、コモの攻撃に新たな次元をもたらす可能性がある。
コモの野心とザークツィーの再起
現在セリエAで8位につけるコモは、昇格1年目とは思えない安定感を見せている。ファブレガスの指導の下、若手中心のチームは着実に成長を遂げており、クラブのオーナー陣もチャンピオンズリーグ出場を現実的な目標として掲げている。
そんな中でのザークツィー獲得は、次に進むための一手となる。彼の加入は、クラブの野心を内外に示すと同時に、観光都市コモの魅力とリンクしたグローバルなブランド戦略にも寄与する。実際、クラブは外部からの注目を集める存在としてザークツィーを位置づけている。
一方のザークツィーにとっても、コモは理想的な再出発の場になり得る。ボローニャ時代に見せたような自由なプレーが許される環境、そして自身の価値を再証明できる舞台。ユナイテッドでの苦しい日々を経て、彼が再び輝くためには、戦術的フィットと心理的安心感が不可欠だ。
さらに、コモは若手を“育てる”ことに重きを置いており、ザークツィーのようなテクニカルな選手にとっては、成長の余地が大きい。ファブレガスの戦術理解と選手育成への情熱は、ザークツィーの潜在能力を引き出す可能性を秘めている。
個人的な見解
ジョシュア・ザークツィーのユナイテッドでの苦戦は、適応の問題ではなく、構造的なミスマッチに起因していると感じる。
彼のような“つなぎ型”のフォワードは、プレミアリーグのようなフィジカルとスピードが支配する環境では、どうしても評価されづらい。
だが、それは彼の価値が低いという意味ではない。むしろ、セリエAのような戦術的なリーグでは、彼のような選手こそが違いを生む。
コモというクラブは、ザークツィーにとって“第二のボローニャ”になり得る。ファブレガスの哲学とザークツィーのプレースタイルは、驚くほど親和性が高い。
そして何より、クラブが彼を“育てる存在”として迎えようとしている点が重要だ。プレッシャーではなく信頼の中で、彼は再び自分のサッカーを取り戻すだろう。
この移籍が実現すれば、コモにとっては野心の象徴、ザークツィーにとっては再起の舞台。両者にとって、これ以上ない“最適解”になる可能性がある。冬の移籍市場が動き出すその瞬間、注目すべきはこの交差点だ。