チリで開催中のU-20ワールドカップ。その熱気の中で、ひときわ鮮烈な印象を残した若き才能がいる。ナイジェリア代表のウインガー、サニ・スレイマン。ASトレンチーンに所属する19歳の彼に対し、トッテナム・ホットスパーが正式な問い合わせを行ったことが、複数の英国メディアによって報じられた。
スレイマンは大会を通じて、左サイドからの鋭い突破と、相手守備陣を切り裂くドリブルで観客とスカウトの視線を釘付けにした。特にグループステージ第2戦では、サウジアラビア相手に決定的なアシストを記録。試合の流れを変える存在として、トッテナムのスカウト陣に強烈な印象を残したという。
サニ・スレイマンの武器と進化の軌跡
スレイマンのプレースタイルは、単なるスピードスターでは片付けられない。彼のドリブルは、相手の重心を見極めた上での緩急と方向転換に優れており、瞬間的な加速で置き去りにするだけでなく、ボールを持ったまま試合のテンポを操る力がある。ASトレンチーンでは今季6試合に出場し、2ゴール2アシストを記録。数字以上に、試合の流れを変える「起点」としての役割が評価されている。
彼はナイジェリアのアクワ・ユナイテッドで育成され、2024年夏にスロバキアへ渡ったばかり。欧州での経験は浅いが、CIESの若手評価ランキングにも名を連ねるなど、ポテンシャルは折り紙付きだ。守備への切り替えも早く、ポジショニングの修正能力も高いため、トランジションの激しい現代サッカーにおいては貴重な存在となる。
さらに、彼のプレーにはナイジェリア特有のリズム感と、ヨーロッパで培われた戦術理解が融合しており、単調な突破型ウインガーとは一線を画す。試合中に見せる細かなフェイントや、味方との連携を意識したポジショニングは、すでにトップレベルの片鱗を感じさせる。
トッテナムの補強戦略とスレイマンの適合性
トッテナムがスレイマンに注目する背景には、クラブの補強戦略の変化がある。トーマス・フランク新監督の下、スパーズは若手の育成とスピード感のある攻撃を重視するスタイルへとシフトしている。夏にはモハメド・クドゥス、ランダル・コロ・ムアニ、シャビ・シモンズらを獲得し、攻撃陣の刷新を進めたが、ウイングの層にはまだ伸びしろがある。
スレイマンは、即戦力というよりも「育てて化ける」タイプの選手だ。U-23やカップ戦での起用を通じて段階的にフィットさせることが可能であり、数年後にはプレミアリーグの舞台で主役を張る可能性も十分にある。彼のような縦への推進力を持つ選手は、フランクのハイテンポなスタイルにおいて貴重なアクセントとなる。
ただし、獲得には競合が存在する。グラスゴー・レンジャーズとバイエル・レヴァークーゼンもスレイマンに関心を示しており、争奪戦は激化する見込みだ。特にレヴァークーゼンは若手育成に定評があり、スレイマンにとっても魅力的な選択肢となるだろう。
トッテナムは10月にオーナーから1億ポンドの資金注入を受けており、財政的にも余裕がある。このタイミングでのスレイマンへのアプローチは、クラブの未来を見据えた戦略的な一手といえる。
個人的な見解
サニ・スレイマンのような選手が欧州の舞台で注目される瞬間は、最も心が躍る。
彼のプレーには、数字では測れない「空気を変える力」がある。ボールを持った瞬間にスタジアムの温度が上がるような、そんな選手は稀だ。トッテナムが彼に本気で動くなら、クラブの未来を形作る選択になる。
もちろん、プレミアリーグの壁は高い。だが、スレイマンにはそれを乗り越えるだけのポテンシャルがある。
個人的には、彼がトッテナムに加入し、数年後にスタジアムを沸かせる姿を見たい。そのためにも、クラブが彼の成長を丁寧に支え、焦らず育てることが重要だ。
この移籍が実現すれば、スパーズにとっても、ナイジェリアサッカー界にとっても、大きな意味を持つ一手となるだろう。
