アーセナルはプレミアリーグ首位を走り、ミケル・アルテタのプロジェクトはついに頂点を狙える段階に到達した。だが、その野心は国内リーグにとどまらない。クラブはヨーロッパの舞台でも覇権を握るために、さらなる補強を模索している。そのターゲットの一人が、パリ・サンジェルマンで中盤の核を担うファビアン・ルイスだ。
スペイン代表としてユーロ2024で輝きを放ち、UEFAの大会ベストイレブンにも選ばれたルイスは、今季もルイス・エンリケ監督の下でジョアン・ネヴェス、ヴィティーニャとともに強力なトリオを形成している。
今季は公式戦8試合に出場し、1得点2アシストを記録。数字以上に、試合のテンポを支配する存在感が際立っている。スペイン紙『Fichajes』によれば、アルテタは彼を夢のターゲットと位置づけており、アーセナルが来夏の移籍市場で本格的に動く可能性が高まっている。
問題は契約状況だ。ルイスは2027年までPSGと契約を結んでおり、クラブはさらに2029年までの延長を検討していると報じられている。パリ側にとっても不可欠な選手であるため、交渉は容易ではない。しかし、アーセナルが本気でタイトルを狙うならば、こうした難しい案件に挑む覚悟が求められる。
中盤の厚みか、それとも戦術的進化か
アーセナルの中盤はすでに充実している。デクラン・ライス、マルティン・スビメンディ、クリスティアン・ノアゴーア、そしてキャプテンのマルティン・ウーデゴール。これだけの顔ぶれが揃っていながら、なぜアルテタはルイスを欲するのか。
その答えは「多様性」と「経験」にある。ルイスはアンカーとして守備のバランスを取ることも、インサイドハーフとして前線に絡むこともできる。特に彼の左足から繰り出される縦パスは、相手の守備ブロックを一瞬で切り裂く力を持つ。プレミアリーグの激しいプレスを受けても慌てず、ボールを前進させられる冷静さは、アーセナルのポジショナルプレーをさらに進化させるだろう。
また、ルイスは大舞台での経験が豊富だ。ナポリ時代からセリエAで鍛えられ、PSGではリーグ・アンとチャンピオンズリーグを戦い抜いてきた。ユーロ2024での優勝経験も含め、勝者のメンタリティを持つ選手は、若いアーセナルのロッカールームにとって大きな財産となる。
もちろん、補強の優先順位を考えればウイングやストライカーの方が急務だという意見もある。ブカヨ・サカへの依存度、ガブリエウ・ジェズスの退団リスクは依然として課題。しかし、アルテタは中盤を心臓部と捉えており、そこにさらなる血流を送り込むことで全体の機能を高めようとしている。
個人的な見解
ファビアン・ルイスの獲得は、アーセナルにとってリスクとリターンが表裏一体の選択になるだろう。29歳という年齢を考えれば、5000万ユーロ規模の投資は決して軽くはない。
しかし、彼が持つ経験値と即戦力性は、今のアーセナルにとって喉から手が出るほど欲しい要素だ。特にチャンピオンズリーグでの戦いを見据えれば、ルイスのように試合を落ち着かせられる選手は不可欠になる。
もしアーセナルがこの補強を実現できれば、チーム全体の成熟度を一段引き上げる効果をもたらすと考えている。ライスやウーデゴールと並ぶ中盤は、プレミアリーグでも屈指の完成度を誇るユニットとなり、シーズン終盤の熾烈なタイトル争いにおいて決定的な差を生む可能性がある。
一方で、PSGが簡単に手放すとは思えない。契約延長の動きもある中で、アーセナルがどこまで資金を投じ、どのような説得材料を用意できるかが鍵になる。アルテタが夢見る「究極の中盤」を実現できるかどうか、その答えは来夏の移籍市場に委ねられている。

