モハメド・サラーの名前が、再びサウジアラビアの移籍市場を騒がせている。英『TBR Football』が報じたところによると、サウジ・プロリーグから提示された年俸1億5000万ポンド規模の契約は、今もなお“有効”な状態で維持されているようだ。
これは一時的な打診ではなく、サラーが望めば即座に成立する待機契約だ。しかもその内容は、単なる選手契約にとどまらない。観光大使としての活動、将来的なクラブの共同オーナー権まで含まれており、サラーを“国家の顔”として迎え入れる準備が整っている。
サラー自身も、キャリアの終盤を中東で過ごすことに前向きな姿勢を見せている。彼は以前から、アジアやアフリカ、そしてムスリムコミュニティへのサッカー普及を自身の使命と語っており、サウジでのプレーはその延長線上にある。サウジ側も「彼が望むときに、すぐに動ける」と語っており、両者の距離は限りなく近づいている。
リヴァプールでの立ち位置と揺れるリーダーシップ
2022年に締結された大型契約により、サラーはリヴァプール史上最高額の給与を受け取る選手となった。しかし、今季の彼のパフォーマンスは、かつての爆発力を思い起こさせるものではない。
プレミアリーグでの得点数は昨季同時期よりも減少し、ドリブル成功率やスプリント回数も目に見えて落ちている。数字が示すのは、加齢による衰えだけではない。ピッチ上での“存在感”そのものが、かつてのような圧倒的なものではなくなっているのだ。
さらに、ウェイン・ルーニーが自身の番組『The Wayne Rooney Show』で語ったように、サラーとフィルジル・ファン・ダイクのリーダーシップ不足も指摘されている。彼らのボディランゲージや振る舞いが、若手選手たちに与える影響は小さくない。
特に今季は、アルネ・スロット監督の下で新戦力が多数加わったことで、チーム内のダイナミズムが変化しており、サラーの立ち位置も微妙に揺らいでいる。
リヴァプールはすでに、サラー退団後を見据えた動きを始めているとされる。ボーンマスのアントワーヌ・セメニョといった若手〜中堅ウインガーのスカウティングが進行中であり、クラブは“ポスト・サラー時代”の青写真を描き始めている。
サウジが描く“サラー構想” 国家戦略と個人の野望
サウジ・プロリーグがサラーに注ぐ視線は、戦力補強の域を超えている。彼らが求めているのは、ピッチ上のスターではなく、文化的・宗教的アイコンとしてのサラーだ。サウジ王族のアブドゥルアジズ・ビン・トゥルキ・アルファイサル王子は、ピアーズ・モーガンとのインタビューで「サラーは世界で最も影響力のあるムスリム選手。彼を迎えることは我々にとって特権だ」と語っている。
この発言は、サラーの移籍がクラブ間の取引ではなく、国家の威信をかけた文化的プロジェクトであることを示している。サウジアラビアは、2034年のワールドカップ招致を見据え、世界的スターの獲得を通じて国際的な影響力を高めようとしている。その中で、サラーは最後のピースとして位置づけられている。
一方で、サラー自身もこの構想に共鳴している節がある。彼は以前から、アジアやアフリカ、そしてムスリムコミュニティへのサッカー普及を自身の使命と語っており、サウジでのプレーはその延長線上にある。観光大使としての活動や、クラブ経営への関与は、彼のキャリアの第2章を彩る要素となるだろう。
現在、サラーはリヴァプールとの契約を2027年まで残しているが、サウジ側は「今すぐ交渉する必要はない」としており、あくまでサラーの意思を尊重する構えを見せている。この余裕こそが、彼らの本気度と自信の表れであり、移籍が現実味を帯びていることを示している。
個人的な見解
モハメド・サラーのキャリアは、リヴァプールでの黄金期を経て、今まさに新たな局面を迎えようとしている。
彼の移籍話がこれほどまでに現実味を帯びているのは、年齢やパフォーマンスの問題だけではない。彼自身が次のステージを見据えており、それがサウジという舞台と見事に重なっているからだ。
リヴァプールにとって、サラーの退団は感情的にも戦術的にも大きな痛手となるだろう。しかし、クラブは常に変化を受け入れ、進化してきた。
ユルゲン・クロップの退任、スロット体制への移行、そして若手の台頭。これらの流れの中で、サラーの退団は“終わり”ではなく“始まり”となる可能性を秘めている。
サラーが中東の地で新たな物語を紡ぐ日、それは遠くない。そしてその瞬間、彼は単なるサッカー選手ではなく、文化と信念を背負った“時代の語り部”として、世界に新たなインパクトを与えることになるだろう。
