ウェストハムは深刻なストライカー不足に直面している。ニクラス・フュルクルクが代表戦で筋肉系の負傷を負い、少なくとも2か月の離脱が濃厚となった。夏にミカイル・アントニオを放出したことも重なり、現在の前線オプションはカラム・マーシャルとカラム・ウィルソンに限られている。しかし、両者ともプレミアリーグの強度において決定的な存在感を示せていない。
さらに、フュルクルクは出番を求めて、ロンドンから離れる決意をしているともの報じられており、ヌーノ・エスピリト・サント監督が攻撃の軸を欠いたまま冬を迎えることは、クラブの順位争いに直結する致命的なリスクとなる。
そこで浮上しているのが、イヴァン・トニーの獲得である。ブレントフォードでプレミアリーグ屈指のストライカーとして名を馳せた彼は、2024年夏にサウジアラビアのアル・アハリへ移籍。
ところが中東での生活に馴染みきれず、再びイングランド復帰を望んでいると英『Team Talk』が報じている。トニーは昨季サウジで44試合30得点という圧倒的な数字を残したが、本人の目標は2026年ワールドカップに向けたイングランド代表復帰であり、そのためにはプレミアリーグでのプレーが不可欠だ。
トッテナム優勢の中でウェストハムが狙う逆転劇
ただし、トニーを巡る競争は熾烈。特にトッテナムはトーマス・フランク監督の下で補強の最優先ターゲットに据えており、すでに直接交渉を進めている。フランクはブレントフォード時代にトニーを指導しており、その能力を熟知している。トッテナムにとっては、ハリー・ケイン退団後に埋まらないままの“絶対的ストライカー”の穴を埋める存在として最適解。
一方のウェストハムは、財政的にトッテナムほどの余力はない。完全移籍には3000万ポンド以上が必要とされ、さらにサウジとの契約解除には税制上の問題も絡むため、現実的にはローン移籍かローン+買取オプションが唯一の道筋とされている。それでも、ヌーノ監督はクラブに対し「即戦力のストライカーが必要だ」と強く訴えており、フロントも動きを加速させている。
ウェストハムにとっての強みは、出場機会を保証できる点だ。ウェストハムならばトニーは即座にファーストチョイスとなる。代表復帰を目指す彼にとって、これは大きな魅力となる可能性がある。
イヴァン・トニーのプレースタイルとウェストハムへの適合性
トニーの最大の武器は、ゴール前での冷静さと多彩な得点パターンだ。2022-23シーズンのプレミアリーグでは20得点を挙げ、アーリング・ハーランド、ハリー・ケインに次ぐ得点力を証明した。高さを活かしたヘディング、PKの精度、そして味方を活かすポストプレー。ウェストハムのサイドアタッカー陣であるジャロッド・ボーウェンやルーカス・パケタとの相性は抜群であり、彼らのクロスやスルーパスを確実に仕留める存在となるだろう。
また、トニーは守備面でも献身的で、前線からのプレスを怠らない。ヌーノ監督が重視する守備的規律にも適合しやすい。ウェストハムが抱える「攻撃の停滞」と「守備の負担増」という二重の課題を同時に解決できる可能性を秘めている。
現時点での報道を総合すると、トッテナムが一歩リードしているのは事実だ。しかし、ウェストハムはフュルクルクの長期離脱という緊急事態に直面しており、クラブとしての本気度は極めて高い。財政的な制約をどう乗り越えるかが最大の焦点となるが、ローン移籍であれば十分に可能性は残されている。
さらに、ペップ・グアルディオラが「これまで見てきた中で最高のストライカーの一人」と評したこともあるトニー。その評価は、彼が単なる得点屋ではなく、チーム全体を押し上げる存在であることを示している。ウェストハムがこの争奪戦を制すれば、クラブの未来を大きく変える補強となるだろう。
個人的な見解
今回のトニー獲得を巡る動きは、ウェストハムにとってクラブの野心を示す試金石になると感じている。
フュルクルクの離脱や将来的な退団予定は痛恨だが、それを補う形でトニーを迎え入れることができれば、勝負に出るクラブへと変貌する契機になる。
特に、ボーウェンやパケタといった攻撃陣との連携を考えれば、トニーは即座にチームの中心となり得る。
一方で、トッテナムという強力なライバルが存在する以上、交渉は容易ではない。だが、私はウェストハムが「出場機会の保証」という切り札を最大限に活かせば、十分に逆転の可能性があると見ている。
もしこの移籍が成立すれば、2025-26シーズンのプレミアリーグにおいて最もインパクトのある補強のひとつになるだろう。
