スタジアムの空気を一瞬で変える選手がいる。アダマ・トラオレはその典型。筋肉質な体躯から繰り出される爆発的なスプリントは、プレミアリーグでも屈指の破壊力を誇る。
英『Football Insider』によれば、ウェストハムがこのフラム所属のウィンガーに本格的な関心を寄せているという。報じたのはジャーナリストのピート・オルーク氏で、ヌーノ・エスピリト・サント監督が再びトラオレを手元に置くことを望んでいる可能性を指摘した。
ヌーノとトラオレの関係は、ウルヴズ時代に築かれた。2018年から2021年にかけて、トラオレはヌーノの戦術の中で最も輝きを放った。カウンターの起点として右サイドを切り裂き、相手ディフェンダーを置き去りにする姿は、プレミアリーグのハイライトを飾る常連だった。
ウェストハムがその再現を狙うのは、決して夢物語ではない。トラオレは今季終了後に契約満了を迎えるため、移籍市場での動きは現実的な選択肢となっている。
ヌーノ体制の戦術とアダマ・トラオレの適合性
ウェストハムはヌーノ就任後、守備の安定を基盤にしながらも、素早いトランジションを重視するスタイルを志向している。ここにトラオレの特性が見事にフィットする。
彼の最大の武器は、ボールを持った瞬間に相手を置き去りにする推進力だ。ドリブル成功率はプレミアリーグでも常に上位に位置し、ウルヴズ時代にはシーズン平均で1試合あたり5回以上のドリブル突破を記録した。これは単なる数字ではなく、試合の流れを変える決定的な要素だった。
ウェストハムにはジャロッド・ボーウェンという右サイドの主力がいるが、トラオレが加われば攻撃の幅は一気に広がる。ボーウェンがインサイドに切り込む動きを得意とする一方で、トラオレはタッチライン際を縦に突破する。
両者の共存は、相手守備陣に二重の脅威を与えることになる。さらに、ヌーノが好む3バックシステムでは、ウィングバックとの連動でトラオレの爆発力を最大限に活かすことが可能だ。
契約満了を迎える選手を獲得することは、クラブにとってリスクを抑えた補強でもある。移籍金が発生しない可能性が高く、給与面での調整さえクリアできれば、ウェストハムにとっては理想的な補強シナリオとなる。トラオレ自身も、再びヌーノの下でプレーすることに魅力を感じていると報じられている。両者の相互の信頼関係が、移籍交渉を後押しする要素となるだろう。
個人的な見解
アダマ・トラオレのウェストハム移籍は、戦術的にも感情的にも非常に面白い展開だと感じる。ヌーノの下で最も輝いた選手が再び同じ舞台に立つ可能性は、ファンにとって胸を躍らせるストーリーだ。
ウェストハムは近年、ヨーロッパ大会での躍進を目指しながらも、プレミアリーグでの安定感を欠いてきた。トラオレの加入は、試合を決定づける瞬間を生み出す「違い」をもたらす可能性がある。
ただし、トラオレには課題もある。爆発的な突破力に比べて、クロスやシュートの精度は安定していない。ウェストハムが彼を獲得するなら、ヌーノの戦術的な手腕が再び試されることになるだろう。
いわゆる飛び道具のようにスピードスターとして扱うのではなく、チーム全体の攻撃パターンに組み込むことができれば、ウェストハムは新たな武器を手にすることになる。
個人的には、この移籍が実現すれば、プレミアリーグの下位争いにおいてウェストハムが一歩抜け出す可能性を秘めていると考えている。