ロンドンの夜空を切り裂くようなスプリントで知られるアダマ・トラオレ。その肉体美と爆発的な推進力は、プレミアリーグの舞台で幾度も観客を熱狂させてきた。
しかし今のところ、フラムでの彼の立場は急速に揺らいでいる。マルコ・シウバ監督の構想から外れ、今季はベンチからの投入が中心。契約満了が迫る中、クラブは冬の移籍市場で売却を検討しており、来夏にはフリートランスファーでの退団が既定路線となりつつある。
スペイン紙『Fichajes』によると、この動きを敏感に捉えたのがセビージャ。財政的に制約を抱えるクラブにとって、移籍金ゼロで即戦力を確保できるチャンスは見逃せない。さらに、かつてバルセロナで短期間ながらも印象的なプレーを披露したトラオレが、再びラ・リーガのピッチに立つ可能性はファンの心を大きく揺さぶる。
セビージャが描く補強戦略
セビージャは今季、攻撃陣の不安定さに悩まされている。ラ・リーガでの得点力不足は顕著で、突破力を持つウインガーの補強は急務となっている。トラオレの縦への推進力とフィジカルは、セビージャが伝統的に好むカウンター主体の戦術に完璧にフィットする。
データ面でも彼の価値は明確だ。昨季プレミアリーグでのドリブル成功率は依然として高水準を維持し、平均4回以上の成功を記録。これはリーグでもトップクラスの数字であり、セビージャが彼を獲得すれば攻撃の幅は一気に広がる。相手守備陣にとって、彼の存在は常に脅威となる。
さらに、セビージャは財政難に直面しているため、移籍金ゼロで獲得できる選手は極めて魅力的だ。トラオレのような即戦力をフリートランスファーで迎え入れることは、クラブの経営戦略とも合致する。
フラムでの立場と冬の移籍市場
フラムは今季、攻撃陣の補強が遅れたこともあり、トラオレを手放すタイミングを逃した。だが、シウバ監督はアレックス・イウォビやハリー・ウィルソンを優先的に起用し、夏にはケヴィンやサミュエル・チュクウエゼを獲得。その結果、トラオレはベンチ要員に追いやられた。
クラブは冬の移籍市場で彼を格安で放出する意向を示しているが、移籍金を支払ってまで獲得に動くクラブは限られる。だからこそ、セビージャは来夏のフリートランスファーを狙っている。
一方で、プレミアリーグ内にもトラオレ獲得を望むクラブがある。ウェストハム・ユナイテッドだ。ヌーノ・エスピリト・サント新監督は、かつてウルヴズでトラオレを指導した経験があり、その爆発的な突破力を熟知している。再会を望む気持ちは強く、冬の移籍市場で動きを見せる可能性は十分にある。
ただし、選手本人にとってラ・リーガ復帰は大きな誘惑だ。スペインの環境でこそ、彼の持つ技術とスピードは最大限に発揮される。プレミアリーグのフィジカルな戦いに比べ、ラ・リーガではよりスペースを活かしたプレーが可能であり、トラオレの特性に合致する。
個人的見解
アダマ・トラオレのキャリアは、爆発力と安定性の狭間で揺れてきた。圧倒的なスピードで観客を魅了する一方、得点やアシストといった数字面では物足りなさが指摘され続けている。
しかし、セビージャの現状を考えれば、彼の存在は攻撃の軸足を変える可能性を秘めている。ラ・リーガの舞台で再び輝きを取り戻す姿は十分に想像できる。
私の見立てでは、セビージャが来夏にフリートランスファーで獲得する可能性が最も高い。ウェストハムの動きも注目されるが、ヌーノの下で再びプレーするよりも、母国で新たな挑戦を選ぶ方が選手としての充実感を得られるはず。
29歳という年齢は、キャリアの集大成を築くタイミングでもある。セビージャが彼を迎え入れれば、クラブの攻撃陣に新たなダイナミズムをもたらし、ファンの心を再び熱くするだろう。
