マージーサイドの冷たい風が、今季のアンフィールドには一層厳しく吹き荒れている。かつて難攻不落を誇った要塞は、開幕からの躓きによってその神話を失いかけた。アルネ・スロット体制2年目のジンクスか、あるいは戦術的な賞味期限切れか。
ピッチ上の混乱は順位表という冷徹な数字となって表れ、サポーターの焦燥感を煽り立てている。さらに深刻な影を落とすのが、長きにわたり攻撃の全権を握ってきたモハメド・サラーの不振。かつての爆発力は鳴りを潜め、決定機でのミスが散見されるようになった。
悪い予感は重なるもので、年明けにはアフリカ・ネーションズカップ（AFCON）による長期離脱が確定。この絶対的な得点源の不在とスランプが重なる危機的局面に、クラブ首脳陣が冬の移籍市場での大型補強を決断したのは、勇気ある撤退ではなく、生存をかけた反撃の狼煙。
当初のトップターゲットをライバルにかっさらわれる屈辱を味わいながらも、リヴァプールはその視線を一瞬で世界最高峰のクラブへと切り替えた。これは補強ではない。シーズンの命運を分かつ、劇的なドラマの幕開けとなる。
オイルマネーの暴力的な強奪と新たな標的への転換
リヴァプールが当初、サラー不在の穴を埋める即戦力としてリストアップしていたのは、ボーンマスで異彩を放つアントワーヌ・セメンヨだった。プレミアリーグの強度に順応し、フィジカルとスピードを兼ね備えた彼のプレースタイルは、スロットの志向する縦に速いサッカーにもフィットする。
スカウティング部門は彼を「ネクスト・サラー」ではなく、独自の強みを持つ新たな武器として評価していた。しかし、フットボール界の現実はあまりにも無慈悲。
海外メディア『CaughtOffside』の報道によれば、ペップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティがこの争奪戦に乱入し、6500万ポンドの契約解除条項を躊躇なく行使する構えを見せている。
資金力という純粋な暴力の前に、リヴァプールの交渉力は無力化された。シティがセメンヨをチームの新たな歯車として組み込む準備を進める一方で、リヴァプールは撤退を余儀なくされた。
だが、より魅力的なシナリオを呼び寄せることになった。プランBとして浮上したのは、レアル・マドリードで背番号11を背負うロドリゴ・ゴエスである。24歳となったこのブラジル代表FWは、今季からマドリードの指揮を執るシャビ・アロンソ監督の下で、かつてのような輝きを失っている。
アロンソが構築する規律と配置を重視する緻密なシステムの中で、ロドリゴの持つ即興性や流動性はノイズとして処理されてしまったのか、序列は明確に低下した。出場機会の減少にフラストレーションを募らせるロドリゴに対し、リヴァプールは水面下で接触を開始し、その感触は決して悪くない。
セメンヨという国内の有望株を逃すかもしれない中、チャンピオンズリーグでの実績十分なワールドクラスへとターゲットが上方修正された事実は、サポーターにとって予期せぬクリスマスプレゼントとなる可能性がある。
アロンソの冷遇がもたらすプレミアリーグへの扉
ロドリゴ・ゴエスという選手の真価は、その圧倒的な「勝負強さ」と戦術的な「解釈力」にある。彼は単に足が速いだけのウインガーではない。狭い局面を細かいタッチで打開し、味方とのワンツーでゴール前に侵入する技術は、世界でも五指に入る。
特に、今季のリヴァプールが苦しんでいる「引いた相手を崩しきれない」という課題に対し、ロドリゴのプレースタイルは劇薬となり得る。サラーが個の力でサイドを制圧するタイプだとすれば、ロドリゴは中央とサイドを行き来しながら、周囲の選手とハーモニーを奏でるリンクマンだ。
アルネ・スロットが求める、ポジションチェンジを繰り返しながら相手の守備ブロックに亀裂を入れる攻撃戦術において、ロドリゴ以上に適合する人材を見つけるのは困難。
報道によれば、ロドリゴ本人も冬の移籍市場での環境変化を望んでおり、自身のキャリアを再燃させる場所としてプレミアリーグを魅力的に感じているという。シャビ・アロンソ体制下での不遇は、彼の才能が錆びついたことを意味しない。
むしろ、戦術的な相性の不一致が、市場価値の高騰を抑え、獲得のハードルを下げている側面がある。マドリードで全てのタイトルを獲得した彼が、新たな刺激と絶対的な主力としての地位を求めてアンフィールドにやってくる。
そのストーリーには一点の曇りもない。リヴァプール側はすでに代理人を通じて非公式なオファーの準備を進めており、あとはレアル・マドリード側がこの「余剰戦力」の売却にどれほどの値札をつけるか、その一点に絞られる。
フロレンティーノ・ペレス会長との交渉は一筋縄ではいかないが、何よりも現状を変えたいという切実な渇望がある。冬の移籍市場はパニックバイの温床となりがちだが、ロドリゴの獲得は明確なビジョンに基づいたアップグレードになる。
サラーの代役という小さな枠に収まる器ではない。アンフィールドのピッチに立つ時、リヴァプールの攻撃は新たな次元へと進化する。後半戦、奇跡の逆転劇を演じるための主役は、マドリードのベンチではなく、熱狂するKOPの前にいるべきだろう。
個人的な見解
アントワーヌ・セメンヨをマンチェスター・シティに強奪されるかもしれない事実は、リヴァプールのフロントにとって屈辱的な敗北として記録される。しかし、私はこの展開を歓迎したい。
なぜなら、セメンヨがどれほど優れたフィジカルを持っていたとしても、ロドリゴ・ゴエスが持つ「チャンピオンのメンタリティ」と「繊細なテクニック」は、今のリヴァプールに欠けている最後のピースだからだ。
スロットのフットボールが停滞している原因の一つは、前線の選手たちがパターン化された動きに終始し、意外性を欠いている点にある。ロドリゴのプレーには、システムを超越した遊び心と、一瞬で試合を決定づける魔法が宿っている。彼のような異能の才能こそが、閉塞感を打破する鍵となる。
また、シャビ・アロンソがロドリゴを冷遇しているという事実は、彼を獲得する上での最大の追い風だ。選手としてのプライドを傷つけられたワールドクラスが、新天地でどのような反発力を見せるか。その爆発力は計り知れない。
かつてアーセナルに移籍したアレクシス・サンチェスや、マドリードからやってきたメスト・エジルがプレミアリーグに衝撃を与えたように、ロドリゴもまた、イングランドの地でその才能を再証明しようと燃えているはず。
プランBがプランAを凌駕する。そんな痛快な逆転劇を、この冬のアンフィールドで見たいと願うのは私だけではないはずだ。フロントは迷わず、金庫を開けるべきだ。この投資は、必ずトロフィーという形で返ってくる。