ミラノの冷たい雨は、かつてロッテルダムを熱狂させた “エル・ベボーテ” の情熱をも湿らせてしまったのか。
2025年2月、鳴り物入りでフェイエノールトからACミランへと渡ったサンティアゴ・ヒメネス。しかし、カルチョの殿堂サン・シーロで彼を待っていたのは、適応への苦しみと容赦ない批判の嵐だった。
加入から約1年で公式戦30試合出場7得点。かつてのエールディヴィジ得点王にとって、この数字は屈辱以外の何物でもない。そんな失意のどん底にいるメキシコ代表ストライカーに、プレミアリーグから再起のチャンスが舞い込んだ。
差出人は、ロンドンの “The Bees” ことブレントフォード。メキシコメディア『Récord』は、彼らがミランに対してヒメネスのローン移籍を打診したと報じている。
キース・アンドリュース体制の “特効薬” となるか
今シーズンのブレントフォードは、変革の時を迎えている。長年チームを率い、クラブのアイデンティティを築き上げたトーマス・フランクが、その手腕を買われてトッテナム・ホットスパーの指揮官へと引き抜かれたからだ。後を継いだのは、かつてコーチとしてセットプレー戦術などを支えたキース・アンドリュース監督である。
アンドリュース体制下のブレントフォードは、前任者の哲学を継承しつつも、よりダイレクトなアプローチを模索している。しかし、前線の駒不足は深刻だ。絶対的なエースだったイヴァン・トニーの退団以降、その穴を埋める作業は難航している。
ヨアネ・ウィッサもニューカッスルに去り、イゴーリ・チアゴがフィジカルバトルで存在感を示してはいるが、ゴール前での「決定的な仕事」において物足りなさを露呈する場面も少なくない。特に拮抗した展開で、ボックス内で違いを作れるストライカーの不在は、アンドリュース監督にとって頭の痛い問題だ。
そこで白羽の矢が立ったのが、ミランで構想外となりつつあるヒメネス。ブレントフォードの狙いは明確で、ミランで出場機会を失い、自信を喪失している彼を 「半年間のローン」というリスクを抑えた形で獲得し、プレミアリーグでの再生を目指している。
ミラン側としても、高額な移籍金を支払った投資を無駄にしないためにも、他クラブで価値を取り戻してもらう選択肢は悪くない。双方の利害が一致する可能性は極めて高い。
「ロンドン」という回答、そしてフランクの影
ヒメネスにとっても、ブレントフォード行きは魅力的な選択肢に映るはず。記憶に新しいのは、フェイエノールト時代にノッティンガム・フォレストからのオファーを拒絶した件。当時、彼はチャンピオンズリーグでのプレーに加え、ライフスタイルを重視し、ノッティンガムではなく、より国際的な都市での生活を望んだとされている。
その点、ロンドンに本拠を置くブレントフォードは、彼の希望するライフスタイルに合致する。さらに、現在のブレントフォードは、トッテナムへ去ったフランクが残した強固な組織的基盤がある。アンドリュース監督はセットプレーの構築に定評があり、空中戦に強いヒメネスの特徴を最大限に活かす戦術を用意するだろう。
ミランで完全に自信を失う前に、環境を変える必要がある。セリエAの緻密すぎる守備網に窒息しかけている彼にとって、よりオープンでフィジカルコンタクトが激しいプレミアリーグは、本来の野性的な得点感覚を呼び覚ますための格好の舞台となり得る。
個人的な見解
この移籍が成立すれば、サンティアゴ・ヒメネスにとってもブレントフォードにとってもWin-Win の関係になると確信している。
現在のミランにおいて、ヒメネスの序列は下がる一方だ。マッシミリアーノ・アッレグリ監督の戦術的タスクに忙殺され、彼本来の良さである「ゴールへの嗅覚」が消えてしまっている。
一方、キース・アンドリュース監督が必要としているのは、戦術論に縛られすぎず、泥臭くともゴールをこじ開けるフィニッシャー。イゴーリ・チアゴが潰れ役となり、そのこぼれ球をヒメネスが沈める。
この攻撃ユニットの補完性は非常に高い。イタリアで傷ついた “エル・ベボーテ” が、ロンドンの地で再びその咆哮を轟かせる日は近いかもしれない。
