2025年のカレンダーが最後の1枚を迎えようとしている今、バーミンガムの空気は冷え込みを増しているが、ヴィラ・パークの強化部門は熱を帯びている。ウナイ・エメリ率いるアストン・ヴィラは、プレミアリーグのトップ4争いと欧州の舞台での激闘を両立させながら、すでに視線を次の10年に向けている。
彼らがロックオンしたのは、ベルギー・ブリュッセル。名門アンデルレヒトで異彩を放つ17歳の天才、ネイサン・デ・キャットだ。現地メディア『Voetbalnieuws.be』によれば、アストン・ヴィラは今冬、ベルギーの至宝を確保するために、クラブ史上稀に見る先行投資を敢行しようとしている。
2500万ユーロのメガオファーと「即座のレンタルバック」という譲歩
アストン・ヴィラが準備しているオファーは2200万ユーロから2500万ユーロ。実績のあるトッププレーヤーならいざ知らず、まだ10代の選手に対する提示額としては破格。さらに、将来的な移籍金の一部(10%から15%)をアンデルレヒトに還元するリセール条項まで盛り込まれている。
これは、交渉を有利に進めるための金銭的な条件ではない。アストン・ヴィラのスポーツディレクター、モンチの本気度が透けて見える数字だ。
だが、この交渉における最大の切り札は金額ではなく、時間である。アストン・ヴィラは、デ・キャットを完全移籍で獲得した直後、今シーズン終了までアンデルレヒトにレンタル移籍という形で残留させるプランを提示している。
これはアンデルレヒトにとって、シーズン途中の戦力ダウンを回避できる理想的な提案。買い取り義務付きのローンという選択肢もテーブルにはあるようだが、ヴィラ側は完全移籍を完了させた上でのレンタルバックを強く望んでいる。
現代フットボール界において、優れた守備的ミッドフィルダーの市場価値は指数関数的に高騰している。モイセス・カイセドやロメオ・ラヴィアの例を見るまでもなく、才能が完全に開花してからでは、獲得コストは1億ユーロを超えてしまう。
アストン・ヴィラは、デ・キャットがその領域に到達する前の「今」こそが、獲得のラストチャンスだと判断。トッテナムなど他のプレミア勢も関心を寄せているという情報が飛び交う中、ヴィラは他クラブが躊躇するような巨額オファーと柔軟な契約形態を武器に、一気に勝負を決めにきた。
ネールペデの最高傑作がウナイ・エメリの戦術にもたらす未来
アンデルレヒトのアカデミー「ネールペデ」は、ヴァンサン・コンパニ、ユーリ・ティーレマンス、ロメル・ルカクといったワールドクラスを輩出してきた育成の名門。
その最新傑作であるデ・キャットは、守備的ミッドフィルダーとして、年齢離れした戦術眼と冷静さを備えている。彼のプレーには、若手特有の焦りや無駄がない。常にピッチ全体を俯瞰し、最適なパスコースを選択する姿は、かつてのマイケル・キャリックやセルヒオ・ブスケツを彷彿とさせる。
現在のアストン・ヴィラの中盤は、アマドゥ・オナナ、ブバカル・カマラ、そしてユーリ・ティーレマンスという強力なユニットが支えている。しかし、プレミアリーグと欧州カップ戦を並行して戦う過酷なスケジュールは、選手層の厚さを常に要求する。
特にエメリの戦術において、中盤の底は攻守の心臓部であり、極めて高いインテンシティと判断力が求められるポジション。フィジカルモンスターであるオナナ、ボール奪取の鬼カマラに対し、デ・キャットはより配球力に長けた「レジスタ」タイプとして、異なるアクセントを加えることができる存在。
ティーレマンスが30代に近づきつつある今、彼の後継者として同じアンデルレヒト出身のデ・キャットを据える構想は、あまりにも美しいストーリーとなる。
17歳の彼がいきなりプレミアリーグのフィジカルコンタクトに適応するのは難しいかもしれない。だからこそ、今シーズンは慣れ親しんだベルギーリーグで経験を積み、来夏のプレシーズンから満を持してエメリの指導を受けるというプランは、選手の成長曲線を考えても理に適っている。
エメリは若手の抜擢に慎重だが、一度信頼を置けば徹底的に使い込む指揮官だ。デ・キャットがその眼鏡にかなったのであれば、彼の未来は約束されたも同然だろう。
この移籍が成立すれば、アストン・ヴィラは中盤の世代交代をスムーズに進めるための決定的なピースを手に入れることになる。2500万ユーロという金額は、今の市場においては「保険」ではなく、確信に満ちた「投資」なのだ。
個人的な見解
アストン・ヴィラのこの動きには、クラブとしての明確な「格」の向上を感じずにはいられない。数年前であれば、ベルギーの有望株がステップアップの場として選ぶのは、ドルトムントやベンフィカ、あるいはプレミアの中堅クラブだったはずだ。
しかし今、ヴィラはCL圏内を争うライバルたちを出し抜き、トッププロスペクトを直接引き抜こうとしている。モンチの就任以降、補強戦略は明らかに洗練された。完成されたスター選手を乱獲するのではなく、市場価値が爆発する直前の才能を的確に射抜くスカウティング能力は、まさにワールドクラスだ。
個人的に最も評価したいのは、やはり「アンデルレヒトへの残留レンタル」という配慮。多くのプレミアクラブが、獲得した若手を自軍のU-21チームに幽閉したり、無関係なクラブへレンタルに出してキャリアを停滞させてしまう中、ヴィラは選手の育成環境を最優先に考えている。
デ・キャットにとって、勝手知ったるクラブでフルシーズンを戦い抜く経験は、イングランドのフィジカルバトルに飛び込む前の最良の準備となるはず。この誠実なアプローチこそが、選手サイドや代理人、そしてアンデルレヒト側を納得させる最大の要因となるだろう。
もし彼が順調に育てば、数年後には「あの時2500万ユーロで買えたのは奇跡だった」と語り継がれることになる。この冬、モンチとエメリが見せる本気の一手に、喝采を送る準備をしておくべきだ。
