アンジェ・ポステコグルーが去り、トーマス・フランクがトッテナム・ホットスパーの指揮官として新たな規律を持ち込んでから、チームは確かな変貌を遂げつつある。
かつてのロマンチシズムあふれる攻撃サッカーから、より鋭利で、より強度の高い「組織的なカオス」へ。デンマーク人指揮官が植え付ける戦術的柔軟性の中で、トッテナム・ホットスパーは昨季のヨーロッパリーグ王者としての誇りを胸に、次なる進化を模索している最中。
しかし、依然として解決されていない課題がある。ハリー・ケインの退団から2年、最前線でチームの心臓となる絶対的なストライカーの不在だ。
そんな中、今夏パリ・サンジェルマン(PSG)からのローンで加入したランダル・コロ・ムアニの去就に関するニュースが、現地メディアを騒がせている。
トルコ人ジャーナリスト、エクレム・コヌール氏によると、トッテナムは夏にこのフランス代表FWの完全移籍による獲得を画策しているという。フランク監督が求める強烈なプレッシングと縦への推進力を体現しうるこのアタッカーに対し、クラブは本腰を入れる構えだ。
フランク流「堅守速攻」の切り札となるか、519分の苦闘と光明
現実を直視しよう。今シーズンのコロ・ムアニが、トッテナムで絶対的な地位を築いているとは言い難い。ここまで公式戦11試合に出場し、プレー時間はわずか519分。
トーマス・フランク新監督が課す極めて高い守備タスクと、激しいトランジションへの適応に時間を要しているのは明らか。ブンデスリーガを席巻し、カタールW杯決勝で世界を驚かせたあのダイナミズムは、プレミアリーグのフィジカルバトルの中で埋没しかけていた。
昨季後半のユベントスへのローンでも完全燃焼できず、PSGでは「余剰戦力」扱い。ここロンドンでも適応に苦しむ姿に、サポーターの一部からは懐疑的な視線が向けられていた。だが、フランク監督は彼を見限ってはいなかった。指揮官がブレントフォード時代から好む「縦に速い攻撃」において、コロ・ムアニのスピードは脅威となり得るからだ。
その片鱗が見えたのが、先日の古巣PSG戦。自身を放出したクラブに対し、怒りを込めたような2ゴールを叩き込んだ。これまでの鬱憤を晴らすかのようなスプリント、そして一瞬の隙を突いてゴールを陥れる決定力。
それはまさに、トーマス・フランクが目指す「奪ってから数秒で完結する攻撃」の理想形だった。クラブ首脳陣が完全移籍への移行を検討し始めたのは、フランクの戦術にカチリとハマった瞬間の破壊力を目の当たりにしたためだ。
宿敵アーセナルの介入と欧州包囲網
しかし、スパーズが描く未来図は、そう簡単に実現するものではない。コヌール氏によれば、来夏のコロ・ムアニ争奪戦には、欧州の強豪たちがすでに名乗りを上げている。
イタリアのユベントス、スペインのアトレティコ・マドリードといった堅守速攻を得意とするクラブが、このフランス人の動向を追っている事実は、彼の実力が依然としてトップレベルにある証拠だ。
そして何より厄介なのが、宿敵アーセナルの存在だ。ミケル・アルテタ率いるガナーズもまた、この26歳のアタッカーをリストアップしている。アルテタの緻密なポジショナルプレーとは対極に位置するような本能的なストライカーを彼らが狙う理由は明白。
システムが膠着した際の打開策、いわば「劇薬」としての役割を期待しているのだろう。ガブリエル・ジェズスの去就が不透明な中、アーセナルが本気で獲得に乗り出せば、マネーゲームに発展する可能性は高い。
トッテナムにとって、フランク体制のアイコンにもなり得る選手を、最大のライバルに奪われるわけにはいかないというプライドの戦いでもある。PSG戦で見せたあの輝きが、もし赤いユニフォームを着て発揮されるようなことになれば、スパーズファンにとってこれ以上の屈辱はない。
個人的な見解
トッテナムは、ランダル・コロ・ムアニの完全移籍を迷うべきではない。トーマス・フランクという監督の特性を考えた時、彼はあまりにも理想的なピースだ。
ポステコグルー時代の「ボールを保持して崩す」スタイルから、「相手の隙を突き、縦に速く刺す」スタイルへと移行しつつある現在、コロ・ムアニが持つ圧倒的な推進力と、スペースへの嗅覚は、ソン・フンミンの後継者として、あるいは全く新しい攻撃の核として機能するはず。
519分という出場時間の短さは、適応期間と考えれば妥当な範囲。重要なのは、フランクの求めるインテンシティの高い守備をこなしつつ、攻撃で違いを作れるかという点にある。PSG戦のパフォーマンスは、その回答だった。
アーセナルが横槍を入れてくる前に、スパーズは迅速に交渉をまとめるべき。トーマス・フランクの下で覚醒し、北ロンドンの新たな英雄となるか、それとも他クラブでその才能を爆発させるか。来夏の決断が、今後数年のスパーズの命運を分けることになるだろう。
