アストン・ヴィラ、この古豪にして新時代の野心家が、またしても移籍市場で主役の座を奪おうとしている。英『The Mirror』によれば、クラブの象徴であり、クラブの得点源として活躍し続けてきたオリー・ワトキンスの「次」を見据えた、極めて戦略的かつ大胆なプロジェクトの露見した。
ウナイ・エメリ監督が白羽の矢を立てたのは、ブレントフォードで異彩を放つブラジル人ストライカー、イゴーリ・チアゴ。提示額は5000万ポンド。24歳の若き才能に対し、ヴィラはクラブの金庫をこじ開けてでも獲得に向かう構えを見せている。。
ウナイ・エメリの渇望と「ポスト・ワトキンス」への布石
ウナイ・エメリという指揮官は、勝利への執着と同じくらい、チームの代謝に敏感だ。現在29歳となったオリー・ワトキンスは、依然としてプレミアリーグ屈指のスコアラーであり、ヴィラの攻撃を牽引する絶対的なエースだ。
しかし、エメリの戦術眼は、その輝きが永遠ではないことを見抜いている。過密日程を戦い抜く上で、ワトキンスへの過度な依存はアキレス腱になり得る。
そこで浮上したのがイゴーリ・チアゴという選択肢。ブレントフォードで見せる彼のプレーは、まさに「猛獣」と呼ぶにふさわしい。圧倒的なフィジカルで相手ディフェンダーをなぎ倒し、前線からのプレスで守備網を破壊する。
ワトキンスがスピードと連動性で勝負するタイプなら、イゴーリ・チアゴはパワーと理不尽さでゴールをこじ開けるタイプだ。この異なる武器をスカッドに加えることで、ヴィラの攻撃オプションは飛躍的に拡大する。
同紙によれば、エメリはイゴーリ・チアゴを単なるバックアップ要員とは見ていない。彼はワトキンスの負担を軽減する即戦力であり、将来的には「ヴィラ・パークの王」として君臨すべき逸材だと確信している。
5000万ポンドという規格外のオファー額は、このブラジル人に対する最大級の評価と、クラブが抱く本気度の裏返しと言える。
ブレントフォードの鉄の掟とワールドカップへの情熱
だが、この移籍劇がすんなりと完結するほど、プレミアリーグのビジネスは甘くない。立ちはだかるのは、ブレントフォードというクラブの確固たるポリシーだ。彼らは選手の価値を極限まで高めてから売却する達人であり、安易な引き抜きには一切応じない。
ディーン・ジョーンズ記者の情報によれば、ブレントフォードを率いるキース・アンドリュース監督は、クラブ上層部と「1月の主力放出は凍結する」という紳士協定を結んでいるという。
イゴーリ・チアゴの契約は2029年まで残されており、クラブ側に売却を急ぐ理由は皆無。シーズン半ばにエースを引き抜かれることは、チームの屋台骨を抜かれるに等しい。5000万ポンドは魅力的な金額だが、残留争いや欧州カップ戦争いにおける戦力ダウンのリスクを天秤にかければ、ブレントフォードが首を縦に振る可能性は極めて低い。
さらに、イゴーリ・チアゴ自身の野心も複雑に絡み合う。2026年北中米ワールドカップまで残り半年。彼にとって、セレソン（ブラジル代表）入りは譲れない夢だ。ブラジル代表の前線は、世界最高峰のタレントがひしめく激戦区である。ここで生き残るための条件はシンプルで、毎週試合に出場し、ゴールという結果を出し続けることだ。
アストン・ヴィラへ移籍すれば、当然ながらワトキンスとの激しいポジション争いが待っている。出場機会が減少すれば、それは即ち代表落選へのデスロードを意味する。
イゴーリ・チアゴにとって、慣れ親しんだブレントフォードで絶対的な地位を守り、コンスタントに結果を残すことこそが、ワールドカップへの最短ルートであることは明らか。
個人的な見解
アストン・ヴィラが見せるこの「攻め」の姿勢、私は嫌いではない。むしろ、ビッグクラブの地位を確立しようとする強烈なエゴを感じ、頼もしさすら覚える。
オリー・ワトキンスという絶対的エースがいながら、あえて異なるタイプの怪物、イゴーリ・チアゴを狙う。この貪欲さこそが、チームを次のレベルへと押し上げる原動力になるからだ。
イゴーリ・チアゴが持つ野性味あふれるプレースタイルは、洗練されたヴィラのフットボールに強烈なアクセントを加えるに違いない。
しかし、冷静に状況を分析すれば、この冬の移籍成立は「極めて困難」と断言せざるを得ない。ブレントフォードのガードは堅く、何よりワールドカップを控えた選手心理として、リスクの高い移籍を選択するとは考えにくいからだ。
キース・アンドリュース監督が主力の流出を許容するはずもなく、ヴィラが5000万ポンドを積んだところで門前払いされるのがオチだろう。だが、もしヴィラがこの常識を覆し、イゴーリ・チアゴにヴィラ・パークのユニフォームを着せるようなことがあれば、それはエメリの手腕が魔術の領域に達していることの証明となる。
確率は低いが、奇跡を期待したくなる。それがフットボールファンの性というものだ。