師走の訪れとともに、マージーサイドの風は一段と冷たさを増している。だが、リヴァプールサポーターの背筋を凍らせているのは、アイリッシュ海から吹き付ける寒風ではない。チームの守備を支えるイブラヒマ・コナテの去就を取り巻く不穏な空気のまま。
これまで長く噂されてきたレアル・マドリードの影が薄らいだのも束の間、今度はイタリア・セリエAの覇者、インテル・ナツィオナーレ・ミラノがその鋭い牙を剥き始めている。運命の「1月1日」まで、残された時間はわずか1ヶ月しかない。
「フリー移籍の帝王」が嗅ぎつけた好機
事態は想定していたよりも遥かにスリリング、かつ危険な領域へと突入した。イタリアメディア『Inter Live』によれば、インテルは来夏の移籍市場における最重要ターゲットとして、イブラヒマ・コナテの名をリストアップしたという。
リヴァプールファンにとっての朗報は、確かにあった。長らくコナテの移籍先筆頭と目されていたレアル・マドリードが、獲得レースから撤退したという情報だ。白い巨人は、クリスタル・パレスのマルク・グエイやバイエルンのダヨ・ウパメカノといった別のオプションへ舵を切ったとされる。
だが、この撤退劇はリヴァプールに安息をもたらしはしなかった。むしろ、マドリードという巨大な捕食者が去ったことで生じた生態系の空白に、より狡猾で、より「タダで獲る」ことに長けたハンターが侵入してきたのだ。
インテルの会長であり、補強の全権を握るジュゼッペ・マロッタは、欧州フットボール界において「フリー移籍の帝王」の異名をとる。マルクス・テュラム、ピオトル・ジエリンスキ、メフディ・タレミ。これらの一線級のタレントを移籍金ゼロで手中に収めてきた彼の手腕は、財政難に喘ぐイタリアサッカー界において異彩を放っている。
そのマロッタが、マドリード撤退の報を聞き逃すはずがない。当初インテルもウパメカノに関心を寄せていたようだが、高騰する給与条件を前にターゲットを変更。彼らの照準は今、アンフィールドで契約延長のペンを走らせていないフランス代表DFに完全に固定された。
インテルが採用する3バックシステムにおいて、コナテの特性は驚くほど合致する。広大なスペースを独力でカバーするスピード、空中戦での絶対的な強さ、そしてビルドアップの貢献。右のセンターバックとして、これほど完璧なピースは世界中を探しても稀有。
彼らは移籍金が浮く分を、選手個人の契約金や年俸に手厚く配分することで、プレミアリーグのクラブとも対等に渡り合う。リヴァプールが悠長に構えている間に、水面下での包囲網は着実に狭まっている。
1月の「事前合意」解禁とクラブの怠慢
時計の針は残酷に進む。ボスマン判決に基づくルールにより、契約満了の半年前にあたる来年の1月1日から、コナテは海外クラブとの事前契約交渉が解禁される。つまり、あと30日あまりで、インテルは堂々と、合法的に、リヴァプールの頭越しにコナテと来季の契約を結ぶことが可能になるのだ。
2021年にRBライプツィヒから3600万ポンドでやってきた男は、今やその金額が「バーゲン価格」だったと思わせるほどのワールドクラスへと進化した。ユルゲン・クロップが築いた土台の上で、アルネ・スロット監督が求める極めて高度な戦術的要求を涼しい顔で遂行している。
フィルジル・ファン・ダイクという偉大な存在の横で、あるいは彼が不在のピッチで、コナテが見せるパフォーマンスはチームの勝敗に直結する。
その彼を、移籍金ゼロで失う。そんな悪夢のようなシナリオが現実味を帯びているのは、紛れもなくクラブフロントの失策だ。ジョルジニオ・ワイナルドゥムやエムレ・ジャンの時と同じ過ちを繰り返そうとしているのか。
主力選手の契約を最終年まで引っ張るリスク管理の甘さが、再び露呈した形だ。もしコナテがインテル行きを決断すれば、リヴァプールは彼の後釜を探すために、現在の高騰しきった市場で6000万ポンド、いや8000万ポンドを費やす羽目になる。財務的な観点から見ても、これほどの愚策はない。
アンフィールドのドレッシングルームに、シーズン後半戦、「来季はイタリアでプレーすることが決まっている選手」が主力として座ることの悪影響は計り知れない。チームの結束、士気、そしてタイトルレースへの集中力。すべてにおいてノイズとなるだろう。
マドリードが去った今こそが、リヴァプールにとって最大の好機であり、同時にラストチャンスだ。インテルという新たな脅威は、決してブラフではない。イタリアの古豪は本気で、アンフィールドの至宝を略奪する準備を整えている。
個人的な見解
リチャード・ヒューズSDをはじめとするリヴァプールの強化部門には、今すぐ目を覚ませと叫びたい気分だ。
イブラヒマ・コナテの契約延長交渉がここまで長引いている現状は、もはやスリリングな交渉劇などではなく、クラブの資産管理における重大な過失になりつつある。彼は26歳で、センターバックとして脂が乗り切り、これからキャリアの全盛期を迎える年齢だ。
ファン・ダイクの後継者問題が常に議論される中で、その最適解である男をみすみす手放すなど、正気の沙汰ではない。
「マドリードが撤退したから安心だ」などという楽観論がフロントに蔓延しているとしたら、即座に捨て去るべきだ。むしろ相手がインテルであることの方が厄介。
彼らは選手を説得する術を熟知しており、金銭以外のプロジェクトの魅力で心を揺さぶってくる。1月1日になれば、主導権は完全に選手側と交渉相手に移る。
リヴァプールに残された猶予は、実質的にあと数週間しかない。クリスマスプレゼントなどいらない。ファンを不安の底に突き落とす沈黙を破り、クラブの本気を見せてほしい。
