アンフィールドを包む空気は、かつてないほど重く、そして冷たい。フロリアン・ヴィルツとアレクサンデル・イサクという、誰もが羨むビッグネームをダブルで迎え入れたあの夏の高揚感は、今や遠い過去の記憶となった。
開幕前の優勝候補筆頭という下馬評は完全に裏切られ、チームは現在、タイトルレースから早々に脱落するという屈辱的な現実に直面している。アルネ・スロット体制2年目、攻撃のタレントは揃ったはずなのに、チームは機能不全に陥っている。
この閉塞感を打破し、バラバラになったピースを繋ぎ合わせるための “ラストピース” がついに特定された。エドゥアルド・カマヴィンガ。リヴァプールがこの冬、全てを懸けて獲得に動くターゲットだ。
巨額投資の夏を経てなお不足する「強度」と6000万ユーロの再投資
海外メディア『CaughtOffside』が伝えたニュースは、失望に沈むKOPたちの目に再び希望の光を灯した。リヴァプールは1月の移籍市場で、カマヴィンガ獲得のために6000万ユーロのオファーを準備しているという。
夏にヴィルツとイサクに巨額を投じながらも、なぜ今、再び大金を動かす必要があるのか。その答えはピッチ上の惨状にある。前線のきらびやかなタレントたちが孤立し、中盤でのボール奪取と展開がスムーズにいかない現状が、チームの低迷を招いているからだ。
だが、ターゲットはレアル・マドリードの主力級だ。交渉は一筋縄ではいかない。8000万ユーロという強気な価格設定を崩していない。2000万ユーロの隔たりは大きいが、今のリヴァプールには「背に腹は代えられない」事情がある。
チャンピオンズリーグ出場権すら危うい現状を放置すれば、クラブの財政的・ブランド的ダメージは計り知れない。この緊急事態において、フロントがさらなる投資を決断できるかが問われている。
カマヴィンガ自身も、マドリーで絶対的な地位を確立しているとは言い難い。豪華な中盤のローテーションの一角に留まる現状に、彼が満足しているはずがない。リヴァプールが提示できるのは、再建の中心人物としての絶対的な地位と、プレミアリーグという最高峰の舞台での主役の座。チーム状況は最悪だが、だからこそ「救世主」としての役割は、野心ある若者の心を揺さぶる材料になり得る。
ヴィルツとイサクを輝かせるための戦術的接着剤
今シーズンのリヴァプールの不振の主因は、攻撃と守備の分断にある。ヴィルツが魔法をかけようにもボールが届かず、イサクが裏を狙っても出し手が潰される。中盤のフィルターが機能せず、カウンターの餌食になるシーンを何度目撃しただろうか。カマヴィンガは、この負の連鎖を断ち切るための完璧な解となる。
驚異的なボール奪取能力と、そこから自らボールを運んで陣地を回復する推進力は、現在のリヴァプールに最も欠けている要素。中盤の底、あるいはインサイドハーフに入ることで、マック・アリスターやソボスライの負担は劇的に軽減される。
カマヴィンガが泥臭くボールを刈り取り、シンプルにヴィルツへ預ける。このラインが開通すれば、死にかけていた攻撃陣は息を吹き返すはず。また、彼の左サイドバックもこなすユーティリティ性は、崩壊しかけている最終ラインにとっても大きな助けとなる。
スロット監督が目指したフットボールが頓挫しかけている今、戦術の修正だけでは限界がある。必要なのは、理屈抜きで局面を打開できる「個」の力だ。8000万ユーロという金額は、マドリーへの移籍金であると同時に、リヴァプールがトップクラブの地位に踏みとどまるための「手付金」でもある。
個人的な見解
正直に言おう、今のリヴァプールの惨状を見るのは苦痛だ。夏にヴィルツとイサクが来たとき、私たちは「これで勝てる」と確信した。
だが、フットボールは足し算ではなく掛け算だ。中盤のエンジンが焼き付いていれば、どんなに高級なタイヤを履いても車は走らない。この半年間、中盤の強度不足とバランスの悪さが露呈し続けた。カマヴィンガの獲得は、単なる補強ではなく、この歪なチーム構成を正すための緊急手術になり得る。
6000万ユーロでマドリーが首を縦に振るとは思えない。ならば、8000万ユーロ満額を支払ってでも連れてくるべきだ。今シーズンを棒に振る損失と、来季以降への希望を天秤にかければ、その価値は十分にある。
FSGは「夏に金を使った」と言い訳をするかもしれないが、投資対効果を最大化させるためにも、ここで止まってはいけない。泥船になりつつあるこのチームを救えるのは、カマヴィンガのような規格外のエネルギーを持った選手だけだ。
KOPはまだ諦めていない。フロントよ、その意地を見せてくれ。
